★★★☆☆
内容
時に我々を泥沼に引きずり込み、時には健康までも損なわせる頭の中のしゃべり声、チャッターと上手くコントロールする方法が紹介される。
感想
頭の中のひとりごとについて書かれた本だ。このひとりごとは内省を促し成長に役立つものだが、悪い方に作用することも多い。頭の中を同じような考えが何度もグルグルと回って抜け出せず、それ以外のことが出来なくなったり、眠れなくなったりする。
チャッターを構成するのは、「循環するネガティヴな思考と感情」だ。こうした思考や感情は、内省という素晴らしい能力を祝福ではなく呪いに変えてしまう。私たちの行動、意思決定、人間関係、幸福、健康を危険にさらすのだ。
p12
本書ではそんな「チャッター」をどうすればコントロールできるのか、その具体的な方法が紹介されている。様々な研究の結果が示されているが、よく考えると心の声は自分にしか分からないものなので、なかなか客観的には見えにくいものだ。
人は当然のように、みんな自分と同じように心の声が聞こえているものだと思い込んでいるが、実は他の人よりもその量が全然多かったり、全然少なかったりすることがあるのかもしれない。とても無口な人が心の中では自分の何十倍も呟いている、なんてこともあったりするのかもしれないと想像すると怖くもあり、面白くもある。どれくらいその差があるのかは分からないが、人によって多少の差は絶対あるはずだ。
チャッターに悩まされてしまう時は、視野が狭くなっている時だ。だから同じような考えが堂々巡りをしてしまう。そこから抜け出すためにはまず広い視野を取り戻すことが大事だろう。
本書では自分を第三者的な視点で見てみるとか、より大きな視点を意識してみるとか、その観点から多くの解決方法が紹介されている。その中で興味深かったのは、一人称ではなく自分の名前を使って自分に話しかける方法だ。「しっかりしろ、イーサン」などと自分の名前を使うだけで、一気に自動で客観的な視点に立ててしまえるらしい。いちいち第三者を想像したり、大きなものを考えたりする努力の必要がないので簡単だ。
この手法は、矢沢永吉の「YAZAWAはなんて言うかな?」とか本田圭佑の「リトルホンダに聞いてみた」とか、割と有名人のエピソードでよく聞くものだ。彼らはそれが科学的に効果があるとは知らずにナチュラルに出来ているのだろう。面白エピソードも実は理に適ったものだったのかと感心してしまう。
ただこれには問題があって、ナチュラルにやってしまっている天才はそれが効果的だったことに気付いておらず、「成功の秘訣は?」と聞かれたら「毎日トイレを素手で洗うことですかね」などと頓珍漢なことを言いがちなことだ。だが多くの人は素直にそれを信じてしまう。そして成功とは全く関係ない無意味なことに血道をあげる羽目になる。これは名選手必ずしも名コーチならずと言われる所以でもあるだろう。
本書ではチャッターをコントロールする26の方法が紹介されている。だがどれもどこかで聞いたことのあるような一般的なものばかりで、特に目新しいものは無かった。ただナチュラルにそれが出来ない人にとっては、こうやって体系的にまとめられているのは助けとなる。チャッターに悩まされた時はざっと眺めて、すぐに出来そうなものから意識的にやってみると良さそうだ。
常に広い視野を持つことは大事だが、嬉しい時も客観的な視野を意識したままだと喜びの実感が半減してしまう。だからそういう時は一旦それを忘れて、素直に思い切り喜んだ方がいいというアドバイスもあった。こっちの方が、チャッターを制御する方法よりも自分には心に響いたような気がする。どちらかに偏るのではなく、意識的に切り替えられるようにしたいものだ。
著者
イーサン・クロス
登場する作品
ヘンリー・アダムズの教育 (1971年) (アメリカの文学)