★★★★☆
あらすじ
尊敬していた師が棄教したという噂を聞き、真偽を確かめにキリシタン弾圧下の日本にやって来た宣教師。
感想
弾圧下と分かって潜入してくる宣教師たち。その信念の強さはすごいと言わざるを得ない。彼らにとってみればレジスタンス活動みたいなものなのか。
ただやっぱり彼らが良かれと思ってやっている事でも、それによって貧しい日本人達が次々と酷く死んでいくのは、見ていて辛いものがある。こうなってくると気持ちいいからとドラッグを配った結果、廃人にしてしまうのと何が違うのかと疑問に思ってしまう。本人たちは善い事をしているということで気持ちがいいのかもしれないが。
しかし日本側のやり口が狡猾だ。本人を拷問すると殉教者になれると喜んでしまうので、他人を苦しめるという効果的な拷問の方法。段々と何のために自分が苦しんでいるのか分からなくなる。もしかしたら多くの信者を見殺しにしなければいけないのは、キリスト教のためではなく、ただ信念を守りたいという宣教師自身のエゴのためにではないか、という疑心が生じてくる。
ただハリウッド映画ながら、単純に日本をキリスト教を理解しない野蛮な国として描いていない事には好感が持てる。日本には日本の事情があり、そちらの言い分にも矛盾があるのでは?と論理的に説き伏せようとする。原作が日本人だからだけのことはある。この他の日本の描き方にも違和感は感じない。皆の英語が堪能過ぎというのはあるが、許容範囲だろう。
大いなる苦悩の後、遂には棄教をしてしまう主人公。でも責めることはできないし、間違っていないと思える。そして、ひどく落ち込む主人公に無邪気に話しかける窪塚洋介演じる卑怯な日本人。それまで弱い人間に思えた彼が、急に牧師と立場が変わってしまったように思えたのが印象的だった。
主人公は神を裏切ってしまったと絶望しているが、心の弱さから何度も信者らしからぬ行動をとってしまっているこの日本人は、それでも神は自分を許してくれると信じている。つまり、彼の方が神様を信じる力が強いのでないかという気がしてきた。
考えてみれば、様々な宗教では神の怒りをかうとか、天罰が下るとかを恐れがちだが、それではまるで神様が些細な事ですぐ怒るそこらにいるような器のちっさいおっさんと変わらないことになる。これはいくらなんでも神を見くびり過ぎだろう。そんなおっさんのような存在には普通、誰も敬意を示したり慕ったりしないはずなので、となると神様は何でも許してくれるような寛大な存在だと思う方が自然だ。もしかしたら怒るんじゃないかとすぐに疑ったりしないで、もっと神を信じていい。
宗教だの信念だの色々と考え込んでしまう映画だ。個人的には宗教はあってもなくてもどちらでもいいというくらいの認識なのだが、昨今のモラルハザードぶりを見ていると、タガが外れないようやっぱり正直さや高潔さを重視する宗教は必要なのかもと思ったりもしないではない。2時間半以上の大作だが、全然その長さを感じさせない良作だった。
関係ないが、先日のアカデミー賞の授賞式で、エミネムのパフォーマンス中に居眠りしそうになったスコセッシに「3時間の映画を客に見せるくせに、自分は3分のエミネムの曲で居眠りしちゃうの?」とツッコまれていたのは笑った。
Scorsese expects us to stay awake for a three hour movie but he can take a nap during a 3 minute Eminem song? #Oscars2020
— Ithamar Enriquez (@IthamarEnriquez) February 10, 2020
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 マーティン・スコセッシ
脚本 ジェイ・コックス
原作
製作 ヴィットリオ・チェッキ・ゴーリ/バーバラ・デ・フィーナ/ランドール・エメット/エマ・ティリンジャー・コスコフ/アーウィン・ウィンクラー
出演 アンドリュー・ガーフィールド/リーアム・ニーソン/アダム・ドライヴァー/窪塚洋介/イッセー尾形/塚本晋也/小松菜奈/笈田ヨシ/キーラン・ハインズ/パンタ/片桐はいり/伊佐山ひろ子/洞口依子/菅田俊/青木崇高/渡辺哲/高山善廣/EXILE AKIRA/SABU/中村嘉葎雄