★★★★☆
あらすじ
原爆開発を指揮し、戦争を終わらせた男としてもてはやされて、影響力を持った科学者オッペンハイマーは、戦後に過去の行いがもとで窮地に立たされる。
アカデミー賞作品賞、監督賞、男優賞、助演男優賞。180分。
感想
原爆の父と呼ばれた科学者オッペンハイマーを描く物語だ。科学者として頭角を現し、原爆開発計画の中心となって活動する様子が描かれていく。
ただ、開発の様子を詳しく描いたところで難解過ぎてどうせよく分からないので、戦後に開かれた聴聞会で過去を振り返るという形式にして、そこでの関心事であるスパイ疑惑を中心に描いているのが上手い。時間を操るクリストファー・ノーラン監督らしくもある。
そこで描かれる主人公は、物事に柔軟に対処し、政治的な動きも出来る如才のない男だ。天才科学者というと研究以外はからきしダメ、みたいなイメージを勝手に持ってしまっていたので意外だった。だが海外だと自分の実績をアピールして予算を獲得しなければいけないので、これが普通なのかもしれない。ただ、悪意なく人を傷つけてしまう天才らしい無邪気な一面も見せていた。
ユダヤ人である主人公はナチスドイツに危機感を持ち、彼らを倒すために原爆開発を進めていた。だが開発途中でナチスドイツの敗戦が決まる。大義を失ってしまったその時に、今度は日本だと、あっさりと目標を切り替えたのは、科学者のエゴを感じた。作れるはずだから作ってみたい、完成させたい、という純粋な好奇心によるものだ。
倫理観など二の次だが、それが文明を発展させてきた原動力なので仕方がない部分はある。すこし映画「風立ちぬ」を思い浮かべてしまった。
ただ、原爆が完成してしまった瞬間から、主人公は既に後悔し始めている。他の科学者の中には事前に警鐘を鳴らす人も多くいたが、主人公は序盤の毒リンゴのエピソードのように、とにかくまずやらないと気が済まないタイプだったのだろう。やってしまった後でようやく、それが引き起こすだろう惨状について真面目に考えるようになった。
こんな爆弾が存在したら誰も戦争なんかしなくなるだろうという予想も外れ、逆に世界の終わりが現実味を帯びるようになったのも皮肉だ。核実験時の、爆発の連鎖が止まらずに地球が終わってしまうかもしれない恐怖はなかなかのものだったが、それと似た連鎖がゆったりとしたペースで起きているともいえる。その端緒となった主人公は、その現実とそれに囚われてしまった人々に苦しめ続けられることになった。
アインシュタイン、ファインマンなどたくさんの著名な科学者が登場するので、科学好きならきっとより楽しめるはずだ。ただ登場人物が多すぎて、一度見ただけでは細かい部分までは把握しきれなかったところはある。何度か見直すことで理解が深まりそうだ。また、何度も見たくなる映画でもある。
スタッフ／キャスト
監督／脚本／製作
原作 オッペンハイマー 上 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇
出演 キリアン・マーフィー／エミリー・ブラント／マット・デイモン／ロバート・ダウニー・Jr.／フローレンス・ピュー／ジョシュ・ハートネット／ケイシー・アフレック／ラミ・マレック／ケネス・ブラナー／デヴィッド・クラムホルツ／マイケル・アンガラノ／ジョシュ・ペック／グスタフ・スカルスガルド／デヴォン・ボスティック／ジャック・クエイド／ルイーズ・ロンバード／ハリソン・ギルバートソン／アレックス・ウルフ／トム・コンティ／ジェームズ・ダーシー／マティアス・シュヴァイクホファー／マシュー・モディーン／デイン・デハーン／デヴィッド・ダストマルチャン／ジェイソン・クラーク／オールデン・エアエンライク／スコット・グライムス／メイコン・ブレア／トニー・ゴールドウィン／ティム・ディケイ／ジェームズ・レマー／ゲイリー・オールドマン*
*特別出演
撮影 ホイテ・ヴァン・ホイテマ
登場する人物
J・ロバート・オッペンハイマー／レズリー・グローヴス／ルイス・ストローズ／イジドール・ラビ／アーネスト・ローレンス／エドワード・テラー／ロバート・サーバー／ケネス・ベインブリッジ／ハンス・ベーテ／セス・ネッダーマイヤー／リチャード・P・ファインマン／リチャード・トルマン／クラウス・フックス／フィリップ・モリソン／ルイス・ウォルター・アルヴァレズ／アルベルト・アインシュタイン／ニールス・ボーア／パトリック・ブラケット／ヴェルナー・ハイゼンベルク／ヴァネヴァー・ブッシュ／ボリス・パッシュ／ケネス・ニコルズ／クルト・ゲーデル／エンリコ・フェルミ／レオ・シラード／ヘンリー・スティムソン／ハリー・S・トルーマン
