★★★★☆
あらすじ
1970年代、カンボジア内戦を取材していたアメリカ人記者は、戦争の激化で帰国する際、助手を務めたカンボジア人男性を連れ出すことに失敗し、生き別れになってしまう。実話を基にした作品。141分。
感想
カンボジア内戦で起きた実話をもとにした作品だ。ただ劇中でカンボジア情勢は説明されないので、くわしい状況はイマイチ分からなかった。それでも主人公らの様子を見ていれば、詳細は分からないでも良くないことが起きていることは察することが出来た。彼ら記者一団が何も分からないまま拉致されて、まわりが簡単に殺されていく中で監禁され、そしてなぜか解放される一連の出来事は怖かった。いつ殺されても不思議ではない緊迫感に満ちていた。
やがて状況に変化が起きて米軍が撤退する中、主人公とカンボジア人の助手はそのまま現地に残り、取材を続けることにする。この判断がのちに二人に悲しい別れを強いることになった。さらに状況が悪化し主人公が帰国しようとした際、助手だけが圧政下のカンボジアに取り残されてしまった。結局失敗に終わったが、記者仲間たちが必死で彼を助けようとする姿には胸が熱くなった。
のちに悔いていたが、この件はやはり、主人公に記者としての欲があったからこそ起きてしまったのだろう。いくら助手が残りたいと言っても、チャンスがあるうちに無理やりにでも逃がすべきだった。主人公にはどこか欧米人ならではのエゴも感じられ、それが見通しを甘くしていたような気がする。
この後は、助手が残ったカンボジア国内での様子が中心に描かれていく。これが過酷で、見ているだけで辛くなってしまった。彼らは農村の集団生活で強制労働をさせられ、子供は親と引き離されて優先的に洗脳教育を受けている。医者や学者といった知識人は問答無用で殺され、それ以外の人間も些細な理由で簡単に殺されていく。特に洗脳された幼い子供が成人労働者を見咎め、処刑の指示を出すシーンはキツいものがあった。わけも分からないままに残酷な事をしてしまっている。
独裁国家が知識人を迫害することはわりとよくあるが、これは民衆は馬鹿な方が扱いやすいということなのだろうか。最近、政治家が、学者や専門家を軽視したり、学術会議に介入したり、三角関数を学ぶ必要はないと言い出したりする国があるので心配だ。それから反知性主義の傾向がある国は、その指導者自身に学問に対するコンプレックスがあるような気がする。実力よりもコネや血筋がものをいう世襲の国ではあり得そうな話だ。
生きている意味が感じられない奴隷のような生活を強制されていた助手だが、隙を見て村を抜け出す。でも完全に統制された社会で、よくそんな決心が出来たなと感心してしまった。行くあても頼る相手もなく、ただ見つからないように彷徨うしかない。確かに自由ではあるが、強制労働の村での生活よりも苦しいかもしれない。
その後、幾たびも困難を乗り越え、運も手伝って何とか助手は隣国に脱出成功する。世界中にいる難民たちも皆似たようなつらい体験をして来ているのだろう。そう考えると、命からがら逃げてきた相手をむげに追い返す事なんて出来ない。アメリカ帰国後も彼の行方を捜していた主人公との再会シーンはありきたりで、バックで流れるジョン・レノンの「イマジン」もベタ過ぎではあったが、それでもやはり泣けた。
とはいえ、カンボジアをこんな状況にしてしまったのは、アメリカに大きな要因がある。自国の都合で介入し、用が済めば撤退して、あとは現地がどうなろうが知らんふりだ。それを批判するこんな映画が、まだ圧制が続いていたこの時代に作られたことは良いことだが、アメリカはその後も懲りずに世界各地で同じようなことをくり返している。
アメリカに限った話ではないが、世界平和などより自国の利益を常に考えているわけだ。こんな事ではいつまで経っても戦争はなくならないではないかと途方に暮れてしまう。それに翻弄されてしまう人々はたまったものではない。
スタッフ/キャスト
監督 ローランド・ジョフィ
脚本 ブルース・ロビンソン
出演 サム・ウォーターストン/ハイン・S・ニョール/ジョン・マルコヴィッチ/ジュリアン・サンズ/クレイグ・T・ネルソン/パトリック・マラハイド
音楽 マイク・オールドフィールド
撮影 クリス・メンゲス
編集 ジム・クラーク