★★★★☆
あらすじ
失業して絶望するも自殺に失敗した男は、自分を殺してもらおうと殺し屋を雇う。79分。
原題は「I Hired a Contract Killer」。79分。
感想
自殺に失敗し、殺し屋に自分を殺してくれるよう依頼した男が主人公だ。殺し屋を待っている間に恋に落ちてしまい、今度は死にたくないと慌てだす。滑稽ではあるが、もう死ぬしかないと思った次の日に、生きてて良かったと思えることが起きるのが人生だ。可笑しいながらもしみじみとしてしまう。
主人公も自殺に失敗したが、死にたいと思っても案外と死ぬのは難しい。そのための道具や設備が整っている必要があるし、それでも運が悪ければ死ねなかったりする。準備をしている間に気が変わることもある。
だから自殺した人はきっと幸か不幸かすべての条件が揃ってしまった人で、条件が揃わずに自殺に至らなかった人も世の中にはたくさんいるような気がする。そして主人公のように、死ななくて良かったと思えるような出来事があったりしながら、なんだかんだで天寿を全うするのだろう。何で死のうと思ったのか、不思議に思ってしまう日もあるのかもしれない。
自分から殺してくれと言っておきながら、殺し屋から逃げまくる主人公は矛盾していて笑えるが、きっと通常のターゲットもそんな感じだから、殺し屋からすればそんなに面倒くさい状況でもないのかもしれない。いつも通りに仕事をすればいいだけだ。だが彼にも予期せぬハプニングが起きる。
殺しの依頼をキャンセルしたいのに出来なかったり、なぜか途中で彼が殺し屋みたいになってしまったりと、うまくいかない主人公の姿に思わず苦い笑いが込み上げてくる。登場人物たちは皆無表情で、セリフに抑揚もなくて淡々としているのだが、それが独特の味わいとなっている。ドタバタ喜劇にはないコミカルさがある。
異国の地に暮らす孤独感や労働者階級の叫びもアイロニーを交えて描かれており、ただ面白いだけではなく、人生の悲喜劇に思わずしんみりとしてしまう映画だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作/編集 アキ・カウリスマキ
マージ・クラーク/ケネス・コリー/セルジュ・レジアニ/ジョー・ストラマー