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「ヒトラー 〜最期の12日間〜」 2004

ヒトラー ~最期の12日間~ (字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 第二次世界大戦末期、敗戦間近のベルリンでヒトラーの秘書官に採用された女性は、ヒトラーと側近たちの最期の日々を目撃することになる。

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感想

 敵がベルリンまで迫り、窮地に陥ったヒトラーの最期の12日間が描かれる。もう打つ手はないと頭では分かっているのに、挽回するチャンスはまだあるはずだと希望的観測にすがろうとするヒトラーの姿には人間味があった。彼は怪物のようなイメージがあるが、普段はとても紳士的で、色々と間違えてしまっただけの普通のおじさんだった。敗戦になれば彼には悲惨な未来しかないことが明白なので、絶対に負けを受け入れたくない気持ちはよく分かる。

 

 彼の側近らもだいたい同じ運命が待ち受けているわけだが、もう駄目だとあきらめムードが漂っている。酒に溺れたり、ダンスパーティーを開いたりと退廃した雰囲気がまん延し、半ば自棄になっている姿が印象的だった。彼らはすべてをヒトラーに賭けた人間たちだが、一世一代の賭けに負けたギャンブラーの清々しさみたいなものを感じていたのかもしれない。もうあとは野となれ山となれ、破れかぶれの気分だったのだろう。

 

 

 負けを認めたくないリーダーのせいで、市街戦で多くの国民が無駄な血を流すことになる。最終的に自国民を見殺しにするのはどこの国でも同じだなのだなと暗い気持ちになってしまった。ただ国家の中枢の人間たちが、これは彼らが我々を選んだ結果なのだから自業自得だ、同情しない、と主張しているのはなかなか新鮮で興味深かった。

 

 愛国心を煽って独裁化しておいて酷い言い草だが、建前的には一理あるだけに一瞬黙ってしまいそうだ。少なくとも彼らの中には、国民に託されて働いている意識はあったのだなと妙に感心してしまった。頑張ったのだから文句を言うな、などと意味不明の言いわけをされるよりは余程マシだ。

 

 側近たちは、意外とヒトラーに反論するし、戦況を冷静に見つめ、判断も論理的で、ほぼ誰も駄々をこねる子供みたいに理不尽なことは言い出さなかった。やはり同じ敗戦国でも日本とは違う、指揮系統が明確だからかな、などと思いながら見ていた。しかし、敗戦直前の切羽詰まった状況になってくると、玉砕を叫んだり、自決をしたり、裏切ったり、どさくさに紛れて最後だからとタガが外れて残虐行為を行なったりと、最終的には日本と大差がなかった。戦争は馬鹿らしい、ということだけはよく伝わってきた。

 

 それなりに名の知られたヒトラーの側近たちがたくさん登場するので、彼らのことを詳しく知っているとより面白く見られるのだろう。今年の織田信長はこんな感じか、と大河ドラマで思うのと同じ感覚で楽しめるはずだ。個人的には異常さが色々と滲み出ているゲッペルス一家が強く心に残った。

 

 日本にも同じような映画「日本のいちばん長い日」があるが、戦争に翻弄される可哀想な国民の姿を描くものだけでなく、愚かな戦争で醜態を晒し続ける政府首脳たちの姿を描く戦争映画がもっとあった方がいいのかもしれない。特攻隊を見ても想像力のなさで軍国少年のようになってしまう人もいる。毎年、この種類の映画を終戦の日に放送することを定番化し、ジブリ映画並みに国民が終戦時の状況を語れるようになれば、ちょっとはまともな議論が出来るようになるかもしれないなと思ったりした。

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スタッフ/キャスト

監督 オリヴァー・ヒルシュビーゲル

 

原作 「ヒトラー 最期の12日間」「文庫 私はヒトラーの秘書だった (草思社文庫)

 

製作 ベルント・アイヒンガー

 

出演 ブルーノ・ガンツ/アレクサンドラ・マリア・ララ/ユリアーネ・ケーラー/トーマス・クレッチマン/ウルリッヒ・マテス/コリンナ・ハルフォーフ/ハイノ・フェルヒ/クリスチャン・ベルケル/ウルリッヒ・ネーテン/クリスチャン・ヘーニング/アンドレ・ヘンニッケ/アレクサンダー・ヘルト/トルステン・クローン/マティアス・ハビッヒ/イゴール・ロマノフ/トーマス・リムピンゼル/ユルゲン・トンケル/ゲッツ・オットー/イゴール・ブベンチコフ/ハインリヒ・シュミーダー/マティアス・グネーディンガー/ディートリッヒ・ホリンダーボイマー/ディーター・マン/クリスチャン・レドル/ロルフ・カニース/ユストゥス・フォン・ドホナーニ/ミヒャエル・メンドル/ハンス・H・シュタインベルク/アンナ・タールバッハ/トーマス・ティーメ/ミヒャエル・ブランドナー/ビルギット・ミニヒマイアー/リザ・ボヤルスカヤ/デーヴィト・シュトリーゾフ/オリヴァー・シュトリツェル/ベッティナ・レートリヒ/アレクサンドル・スラスチン

 

ヒトラー 〜最期の12日間〜 - Wikipedia

 

 

登場する人物

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トラウドゥル・ユンゲ/エヴァ・ブラウン/ヘルマン・フェーゲライン/ヨーゼフ・ゲッベルス/マクダ・ゲッベルス/アルベルト・シュペーア/エルンスト=ギュンター・シェンク/ハインリヒ・ヒムラー/エルンスト=ロベルト・グラヴィッツ/ヴィルヘルム・モーンケ/ヴァルター・ヘーヴェル/ルートヴィヒ・シュトゥンプフェッガー/ヴェルナー・ハーゼ/ペーター・ヘーグル/ハインツ・リンゲ/エーリヒ・ケンプカ/オットー・ギュンシェ/ローフス・ミッシュ/ヘルマン・ゲーリング/ローベルト・リッター・フォン・グライム/ヴィルヘルム・カイテル/アルフレート・ヨードル/ハンス・クレープス/ヴィルヘルム・ブルクドルフ/ヘルムート・ヴァイトリング/カール・コラー/ハンナ・ライチュ/マルティン・ボルマン/ハンス・フリッチェ/ゲルダ・クリスティアン/コンスタンツェ・マンツィアーリー/ワシーリー・チュイコフ

 

 

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