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「ロスト・イン・ラ・マンチャ」 2002

ロスト・イン・ラ・マンチャ(字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 2000年に撮影開始された映画「テリー・ギリアムのドン・キホーテ(The Man Who Killed Don Quixote)」。数々の不運に見舞われ、その制作がとん挫する過程をとらえたドキュメンタリー映画。

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感想

 序盤は、念願だった作品が作れることになり、意気揚々とする監督テリー・ギリアムの姿が映し出される。とてもエネルギッシュで次々とアイデアが溢れてくる様子は、さすが一流の映画監督といったところだ。半裸の男たちが暴れるシーンのカメラテストで、なぜか監督までが半裸になっていたのは可笑しかった。

 

 準備段階の時点から、出演が決まっている役者との契約が完了していないとか、キャストが皆多忙で顔合わせする機会がないとか、すでに嫌な気配は漂っているが、これらは映画界ではままある事なのか、異常なことなのかはよく分からない。

 

 

 だが撮影が本格的に始まると、いきなり立て続けに不運が彼らを襲う。ロケ地の上空を爆音でNATO軍の戦闘機がひっきりなしに飛び交ったり、記録的な大雨に襲われて機材が流され、景色も変わってしまったり、主演俳優が撮影不能の病気に見舞われたりと、嘘みたいな出来事の連続に、彼らには悪いが思わず笑ってしまった。

 

 彼らの士気をくじくには十分な状況だが、そんな中でも気丈に明るく振る舞う監督は、それこそまるでドン・キホーテのようだった。そしてさじを投げることなく撮影続行の可能性を探り、今出来ることをやろうとする姿はプロフェッショナルそのものだ。その場で臨機応変に決断を下していく。経験豊富なベテランの凄みも感じられた。

 

 だが監督らの奮闘空しく、結局映画は製作中止となってしまう。ドン・キホーテ的だった監督だったが、次第に複雑な表情を見せるようになる。出資者やスタッフ、製作会社などのことを考えなければならない彼は、ドン・キホーテでいるには重すぎる責任を負ってしまっている。だがそんな男だからこそ、ドン・キホーテの生きざまに魅力を感じ、惹かれてしまうのだろう。きっとドン・キホーテ的な人物は、ドン・キホーテの生きざまに何も感じない。それに、もしドン・キホーテがたくさんの配下を抱えていたら、もはやドン・キホーテではいられなかっただろう。 

 

 ラストで監督は、無念さをにじませつつもまだあきらめていない執念も窺わせている。映画はここで終わりだが、彼はその後さらなる紆余曲折を経てこのおよそ20年後、本当に映画を完成させてしまったのだからその執念には恐れ入ってしまう。プロの映画監督であり続けるためには才能だけではなく、きっと色んな力が必要なのだなと思い知らされた。

 

 たぶんよくあるメイキング映像として撮り始めたものだったのだろうが、結果的には泥沼化してしまった映画の製作過程が収められた貴重な映像記録となっている。なかなか見ることのできないものなので興味深く、そして面白いドキュメンタリーだった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 キース・フルトン/ルイス・ペペ

 

出演 ジェフ・ブリッジス(声)/テリー・ギリアム/ジャン・ロシュフォール

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ロスト・イン・ラ・マンチャ - Wikipedia

 

 

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