★★★★☆
あらすじ
強大な隣国との同盟を重視する国王に逆らい、奪われた領土を取り戻そうと画策する重臣の意向を受けて動く影武者。中国映画。
感想
国王の意向に逆らい、奪われた領土を取り戻そうと画策する重臣の影武者が主人公だ。水墨画のような美しい映像の中で、影として生きる主人公や政治的野心に執念を燃やすその主君、両者の間で揺れる主君の妻の姿がじっくりと描かれていく。セットや衣装、小道具や音楽にもこだわりが感じられ、総合的にクオリティの高い映画となっている。
主人公と敵国の王の決闘が物語の中心で、それに向けて主君に特訓を受ける様子などが描かれるのだが、刀剣の達人の相手に対して主人公側はなぜか傘で戦おうとしている。冷静に考えると、なんで?となってしまうのだが、誰もそれを疑っておらず当然のように物語が進行していくのがなんだか可笑しかった。それでもそれなりの説得力があるのは、中国四千年の歴史がなせる業だろうか。
そしていざ決闘の時がやって来る。練習の時とは違い、実戦用の傘は鉄製でちゃんとした武器感があり、これなら納得できると合点がいった。決闘の裏では別部隊による侵攻も始まるのだが、ここでも傘が使われている。傘を武器として使う様々なアイデアが見られて面白かった。
ただこの鉄製の傘は、あまりがっしりとはしていない。ビニール傘のようなチープ感があってそこが少し引っ掛かっていたのだが、主人公の戦いではそのペラペラ感が起死回生の一撃につながったので、ちゃんと考えられていたのだなと感心した。
決闘に勝利し、計略もうまくハマって一件落着かと思っていたら、そこからさらにドラマが待っていた。それまでただの暗愚かと思っていた国王が俄然存在感を表わしはじめる。この部分は若干冗長に感じられたが、物語により深みを与えている。
しっとりと物静かに進行していく物語かと思っていたら、しっかりとしたアクションや男女の物語があって、時に激しく、時に官能的な、かなり見応えのある内容となっている。タイトル的にもそうだが黒澤明の映画のような、黒澤映画がモチーフにしていたシェークスピア劇のような重厚感あふれる映画だ。
鑑賞後には、影武者、女、雨といった「陰」とされるものとそれと対比する「陽」のもの、陰と陽がぐるぐると回転しているような残像が浮かんだ。傘はその象徴だったと言えるだろう。
それから、強大な同盟国に好き勝手されても何も言えずに従順な国王の姿には、アメリカと日本の同盟関係を思い浮かべてしまった。たとえ同盟相手だろうと主張するべきことは主張するべきだ、という主人公側の姿はまさに愛国者と言えるものだが、日本だとたぶん自称愛国者に叩かれてしまうような気がする。これは中国映画だが、日本でこんな映画が作られたら良いのになと思ってしまった。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 チャン・イーモウ
出演 ダン・チャオ/スン・リー/チェン・カイ/ワン・チエンユエン/クアン・シャオトン/フー・ジュン
撮影 チャオ・シャオティン