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「ブルーアワーにぶっ飛ばす」 2019

ブルーアワーにぶっ飛ばす

★★★★☆

 

あらすじ

 東京で荒んだ生活を送っていた女は、祖母の快気祝いのために実家の茨城に帰省する。

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感想

 帰省を予定していた女が、車を買ったばかりの友人に唆され、勢いで一緒に実家に帰ってしまう物語だ。序盤は主人公の東京での荒んだ生活が描かれる。既婚だが不倫中で、昼は仕事でピエロのように振る舞い、夜は潰れるまで飲み騒ぐ。何をやってるのだと自分でも思いながら、ズルズルとそんな生活を続けている。

 

 そんな彼女が友人と共に実家に帰る。母親に指摘されていたが、実家に戻った途端に主人公の声が小さくなり、言葉少なになるのが印象的だ。彼女をそんな風にさせてしまうふるさとのいなたさや実家のしみったれ具合がよく演出されている。

 

 

 故郷に複雑な感情を持つ者にとって帰省とは厄介なものだ。こんなところは嫌だと飛び出してきた場所であり、辞めた会社や別れた人などと同様に、本来はもう戻ることのない過去のものだ。しかし家族の縁を切るほどではなかった場合にはそういうわけにもいかず、渋々戻らざるを得ない時がある。

 

 そこで故郷の嫌いだったところを再確認し、さらには、まだそんな事やっているのかとか、今はこんなことになっているのかとか、今はもうどうでもいい知りたくもなかったことを目の当たりにすることになる。暗然とした気持ちになる。

 

 とはいえ故郷は故郷だ。自身のルーツであることには違いない。それに故郷のすべてが嫌いだったわけでもない。今の自分を形作っている原体験や故郷に置き去りしてきたものを思い出し、感情が揺さぶられてしまう。

 

 主演の夏帆をはじめ、”友人”役のシム・ウンギョン、主人公の家族役たちと、皆がいい演技で見ごたえのあるドラマとなっている。特に主人公の父親役のでんでんが、久々に帰省した娘に最初にかけた言葉のトーンは、肉親ならではのいかにもなもので非常にリアルだった。人には家族にしか見せない顔がある。

 

 タイトル通りぶっ飛ばし気味で、登場人物たちの露悪的な言動に嫌悪感を抱いてしまうところがないわけではなかったが、それだけ現代日本の人々の心が荒んでいるということなのだろう

 

 あんなに嫌だった田舎を飛び出した結果がこれかよと、今の荒んだ生活に自己嫌悪に陥りつつ、それでも新たな気持ちが芽生えて笑顔となり、東京へと車を走らせるラストシーンが心に残る。とかく故郷は面倒だ。完全に嫌いにはなれないのが辛い。

 

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 箱田優子

 

出演 夏帆/シム・ウンギョン/渡辺大知/黒田大輔/でんでん/南果歩/ユースケ・サンタマリア/嶋田久作/伊藤沙莉

 

音楽 松崎ナオ

 

ブルーアワーにぶっ飛ばす - Wikipedia

 

 

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