BookCites

個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「モーリタニアン 黒塗りの記録」 2021

モーリタニアン 黒塗りの記録(字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 人権派弁護士の女性は、アメリカ同時多発テロ事件の容疑者とされ、米軍に起訴も裁判もされないまま何年も拘束され続けているモーリタニア人の男性がいることを知り、彼の弁護を買って出る。

www.youtube.com

 

 事実を基にした物語。129分。

 

感想

 911テロの容疑者として不当に拘束され続けた男に関する物語だ。怪しい奴を全員拘束しておけ、中には無実の者もいるかもしれないが気にするな、とかまるで中世と変わらないやり方で、人権なんて全く無視されている。戦争などでもそうだが、個人単位ではありえないことが国家単位になると平然と行われるのは何なのだろうか。

 

 これも国家を揺るがすようなテロ事件にパニックになっていたからなのだろうが、時間が経つことで冷静さを取り戻し、さすがにそれは駄目だろうと声を上げる人が出てくるのは心強い。不当拘束されているモーリタニアン人の存在を知ったジョディ・フォスター演じる弁護士は、その弁護を買って出る。

 

 

 だがテロリストと目される人物の弁護をすることを非難する人は多い。そんな人たちに対して彼女が、依頼人の権利を守ろうとしているだけ、それはあなたや自分のためだと主張するシーンは、強く心に響いた。本当にその通りで、次は自分かもしれない、と想像する力があるかどうかの問題だろう。なんの根拠もなく、次が自分のわけがないと思い込んでいるのならおめでたすぎるだろう。それこそお花畑だ。

 

 不都合な事実を隠蔽したい国家を前に、弁護士は何度も行く手を遮られる。だがどこかの国と違って、しっかりと三権分立が機能して政府に忖度しない司法が頼もしい。事実を隠蔽したいのは国家ではなく、時の政府でしかないことを教えてくれる。

 

 さらには公僕としての責任感から真相解明に協力する内部の人間が現れたり、法廷で対決するはずの海軍検事も遵法精神に反する事は出来ないと政府の意向を拒否したりと、あちこちで人々の良心が垣間見られる。こういった動きこそが本当の愛国心ある行動だろう。

 

 これらは民主国家の基本だが、なぜか羨ましく感じてしまうのはなぜだろう。なにかあると簡単に建前をすべてうっちゃり、長い物に巻かれまくる自称民主国家もあるらしい。

 

 弁護士の裁判準備の様子と拘束中のモーリタニアン人のこれまでが並行して描かれ、そこからひとつの真実につながっていく過程には引き込まれるものがあった。中盤の拷問シーンで物語的な面白みは薄まり、停滞感が出てしまったが、ここはちゃんと描いておかないといけない場面なので仕方がない部分はある。

 

 拷問ありで10数年も拘束されるなんて殺人よりもひどい扱いだ。全然ハッピーエンドとは言えなくてぐったりとしてしまうが、それでも何とか正義は保たれたと辛うじて安堵する事は出来る。

 

スタッフ/キャスト

監督 ケヴィン・マクドナルド

 

原作 モーリタニアン 黒塗りの記録 (河出文庫)

 

製作/出演 ベネディクト・カンバーバッチ

 

出演 ジョディ・フォスター/タハール・ラヒム/シェイリーン・ウッドリー/ザッカリー・リーヴァイ/ドゥニ・メノーシェ

 

モーリタニアン 黒塗りの記録 - Wikipedia

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com