★★★☆☆
あらすじ
スペインに仕事でやって来たCMディレクターは、かつて映画撮影を行った村を訪ねるが、ドン・キホーテを演じた男が役柄から抜け出せなくなっており、彼の従者サンチョ・パンサだと勘違いされてしまう。
撮影と中止を繰り返し、完成までに20年近くを要して泥沼化した映画として有名。原題は「The Man Who Killed Don Quixote」。
感想
自分をドン・キホーテと思い込んでいる男に、従者のサンチョ・パンサだと勘違いされてしまった男が主人公だ。彼の目を通して自称ドン・キホーテの奇行が描かれていく。
本家ドン・キホーテと同様に、この男にもただの変人と笑って済ませられないような、見る者の感情を様々に刺激してしまう何かがあった。これはきっと本人が至って真剣だからだろう。映画撮影時も演じることを意識しているうちは全然ダメだったが、ドン・キホーテになり切った途端に良くなった。やっていることは変でも、本人が全く疑っておらず、自信をもって堂々としている姿にはどこか心を打つものがある。彼にとってはそれが現実で、その中で必死に生きている。
そんな彼の姿を見ていたら、ネットの世界の有名人もこんな人たちばかりだよなと思ってしまった。自分を何者かだと思い込んでいる人だらけだ。演じているだけの人や我に返ってしまった人から脱落していく。この映画のドン・キホーテも、自分の変さに気付いてしまってから急速に元気がなくなってしまった。
そしてドン・キホーテ的言動は他者に影響を与える。ネットの世界でも、最初はまともだった人がいつの間にかおかしくなってしまうことがあるが同じことだろう。惹きつけられて影響を受けてしまう人たちもいる。しかしドン・キホーテが増殖を続けるネット世界とは、冷静に考えると怖い。
主人公は、ドン・キホーテと行動を共にすることで彼の影響を受け、その精神を引き継いでしまった。そして新たなるサンチョ・パンサが生まれて旅は続いていく。なかなか含蓄に富んでいる。
そんなこともあって、ふたりの道中で起きるおかしな出来事も単純に笑い飛ばすことは出来ず、いろんな感情が入り混じったなんとも言えない気持ちで見守るだけだった。ただ、その背後にある風景や建造物が素晴らしいので、それを眺めているだけでも満足できてしまうところはあった。広大な荒野をトボトボと行くドン・キホーテとサンチョ・パンサの構図はグッと来る。
ドン・キホーテの有名なエピソード、巨人と間違えて風車に戦いを挑む場面は何度も出てくるが、ずっと普通に風車を出しておいて、最後のシーンだけ巨人を登場させる演出は見事だった。主人公同様に、自分もついにドン・キホーテになってしまったような気分にさせられた。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 テリー・ギリアム
出演 ジョナサン・プライス/アダム・ドライバー/ジョアナ・ヒベイロ/オルガ・キュリレンコ/ステラン・スカルスガルド/オスカル・ハエナーダ/セルジ・ロペス/ジョルディ・モリャ/ロッシ・デ・パルマ
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