★★★☆☆
あらすじ
取材中の爆発で片目を失い、PTSDになりながらも取材を続ける女性戦場ジャーナリスト。
実在の戦場記者メリー・コルヴィンをモデルにした物語。110分。
感想
イラクやアフガニスタン、シリアにスリランカなど、各地の紛争地帯を取材で駆け回る花形の女性記者が主人公だ。戦場ジャーナリストはただ勇敢なだけでは駄目で、各戦場のバックグラウンドを把握していないと取材にならない。
つまり彼女はいつどこの国に行ってもいいように、各紛争地帯の刻々と変わる情勢を常に把握していたわけで、そう考えるとかなり大変な仕事だ。情報の更新を怠ることで、生命を脅かす危機を招く可能性だってある。
危険地帯に乗り込み、現地の有力者たちの身勝手な思惑に振り回され、悲惨な状況で暮らす庶民の姿を取材し続ける主人公。片目を失い、PTSDを発症し、常に恐怖を感じながらも危険地帯での取材を止めない主人公の姿を見ていたら、彼女を突き動かしているのは何なのだろうと考えてしまう。戦争の悲惨な現実を知ってしまった以上、もはやそれを無視できないという責任感からだろうか。それとも真実が闇に葬り去られるのを防がなければならないという使命感なのか。
主人公は数々の悲惨な現場に立ち会い、そこで嘆き悲しむ人々の姿を何度も目撃することになる。平静を装ってはいるが、彼女の表情を見れば少しずつ精神を削られていっていることがよく分かる。現地ではストレスでタバコを吸いまくり、戦場から戻れば羽目を外してしまって上手く穏やかな生活が送れない。自らの欲望に忠実でお盛んなのは、いつ死ぬか分からない恐怖からくる本能的なものなのかもしれないが、これもまた彼女の不安定な精神を表していると言えるだろう。
ラストはあっけない幕切れだったが、彼女の無茶な取材ぶりを見ていたら、遅かれ早かれこうなるのは目に見えていたような気もしてしまう。こういう事をする人は、どこかで自分は死なないのではないかと無邪気に思っているような節がある。でもそれは彼女だけではなく、多くの人が日常性バイアスでそう思っていて、だからこそ戦争が起きてしまうのだと言える。ほぼ確実に自分が死ぬと冷静に判断できるのなら、そう簡単に戦争を始めよう!なんて叫ぶ人はいないはずだ。
彼女のような危険を顧みないジャーナリストがたくさんいるからこそ、大本営発表では分からない多くの真実を知ることが出来る。そういう恩恵を受けながら、いざ現地で彼らが拘束されたりしたら「勝手に行ったのだから知らん。自己責任。迷惑。」などと言っちゃうような人にはなりたくないなと心の底から思った。そんなのは快適な場所から動かず、こたつ記事を書いている人のマインドとそう変わらない。
スタッフ/キャスト
監督/製作 マシュー・ハイネマン
原作 A Private War: Marie Colvin and Other Tales of Heroes, Scoundrels, and Renegades
製作 マシュー・ジョージ/ベイジル・イヴァニク/メリッサ・マクマーン/シャーリーズ・セロン
出演 ロザムンド・パイク/ジェイミー・ドーナン/スタンリー・トゥッチ/トム・ホランダー/コーリイ・ジョンソン
登場する人物
メリー・コルヴィン