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「これがニーチェだ」 1998

これがニーチェだ (講談社現代新書)

★★★☆☆

 

内容

 ニーチェの思想の変遷を順を追って紹介する。

 

感想

 久々に手を出してしまった哲学の本。文章がなかなか頭に入って来ず、他の分野の本と比べて読み進めるスピードがグッと落ちてしまった。まず文章自体を把握するのに時間がかかり、今度はその前後の文章との関係を把握するのにさらに時間がかかるといった具合。だから読み終えた時には、読み切った!という達成感は大きかったが、完全に理解したかと言われるとかなり怪しい。時々膝を打つような文章はあるのだが、全体としては薄っすらとだけしか理解していない気がする。

 

 深く頷かされた話の中では、序盤のニーチェが道徳を否定する箇所が印象的だった。本当に道徳がある人は、相手がどんな人でも受け入れるはずなので、他人に道徳を説くようなことをするはずがない、そんな事をする人は相手を道徳で縛って自分だけ利益を得ようとする悪人のはずだ、という理論。確かにそうだ。信者に道徳を説きながら、自分は不道徳の限りを尽くす教祖の話なんて世界中どこにでもある。

 

 

 そんな風に他者を批判するニーチェだが、それを言い出したらお前もそうだろう、とその度にブーメランが返ってくるのが面白い。「私のポリシーは不言実行です。」と言ったら、それを言ってしまっている時点で「不言」じゃないだろうとツッコまれているようなもので、仕方がない部分はあるのだが。ただそんな指摘があるたびに、ニーチェの思想は深まっていく。

 

彼らはみな、他に例のないほどの重病人であり、それゆえに自分の病と格闘せざるをえなかったにすぎない。歴史に残るような思想は、多分どれも、他になすすべがなかった人によって、苦しまぎれに、どうしようもなく作られてしまったものなのである。 

p217

 

 哲学に詳しくない人は、偉大とされる哲学者たちのことを、悩める人類に処方箋を与えてくれる優秀な医者のように思っているかもしれないが、それは大間違いで彼らこそが病人、それも重病人なのだ、という著者の指摘には思わず笑ってしまった。でも妙に納得できる。そして、とっつきにくそうだった哲学者たちに急に親近感を覚えるようになった。そんな事を想像しながら、時間がある時に本を開き、数行ずつじっくり読んでは考える、ということをくり返すような読み方をすれば、哲学を楽しめるような気がしてきた。

 

著者

永井均

 

 

 

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