★★★☆☆
あらすじ
その日暮らしをする若い女は、たまたま見つけた廃墟に移り住み、自給自足の生活を送るようになる。
町田町蔵(町田康)、室井滋、田口トモロヲら出演。119分。
感想
学校跡地のような巨大な廃墟に移り住んだ女が主人公だ。畑を耕し井戸水を使ってキャベツを育て、リビングや寝室を設けて好きなように飾り付け、仲間を呼んで楽しく過ごす。理想郷のような場所を作ろうとしている。
主人公の友人役として町田康(町田町蔵)が出ているが、最初思っていたよりも見た目が若くて意表を突かれてしまった。だが40年ほど前の映画なのだから当たり前だ。当時25歳ぐらいだろうか。街で見かけたら絶対に目を合わせないほうがいいような、ギラギラとしたヤバい存在感を放っている。
他の登場人物たちも「GIZM」「じゃがたら」など、自分はあまり詳しく知らないが、そっち系のバンドのメンバーが演じていて、皆どこか普通じゃない雰囲気が漂っている。現実離れしたアヴァンギャルドな空間だ。
理想郷を目指した主人公だったが、不協和音が生じて人々は離れていき、自身も謎の病気に苦しむようになる。人々の力が衰えて、自然が彼女を飲み込もうとしているかのようだ。キャベツのベッドで苦しむ姿には怖いものがあった。
理想郷なんて実現することはない。最近の世の中を見ていると、むしろディストピアの方が簡単に実現してしまいそうな気がしてしまう。不思議だが、もしかしたら人類は、自分の幸福なんかよりもまず他人の不幸を強く望んでしまうのかもしれない。そうやって誰も幸せでない世界になっていく。
そんな人間の愚かさをあざ笑うかのように、自然は主人公の夢の跡をあっという間に緑で覆いつくしてしまう。ただこれは粗大ごみが散乱する都会とは異なり、失敗してもすぐに修復できる自然の強みとも言えるだろう。主人公も飲み込まれ、その一部となった。
セリフが主体の映画ではないが、大事な場面でもセリフが聞き取りづらいのは辛かった。いろんな解釈が出来そうな、余白の大きい映画だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 山本政志
脚本 山崎幹夫
出演 太田久美子
*
上野裕子/CHEEBO/OTO/坂本みつわ/IZABA/横山SAKEVI/溝口洋/利重剛/室井滋/田口トモロヲ
*町田町蔵名義
音楽 じゃがたら/吉川洋一郎/ハムザ・エル・ディン
撮影 トム・ディッチロ/苧野昇
