★★★☆☆
あらすじ
週末はロックバンドによる過激なライブやストリートレースが行われ、怪しげな人間達がたむろするスラム街に、原発建設の話が持ち上がる。
感想
手振れの酷い映像に激しい音楽、聞き取りづらいセリフと粗さが目立つ荒々しい映画だ。不穏な空気に満ち溢れていて、ザワザワとした胸騒ぎを覚えてしまう。主要な登場人物からエキストラに至るまで、出てくる人間が皆ヤバそうなのが良い。フラストレーションが充満し、そのエネルギーがいつ爆発してもおかしくないような危険な香りが、映像全体からビシバシと伝わってくる。
映画にザ・ロッカーズやザ・ルースターズ、スターリンなどのミュージシャンたちが多数登場しているのも特徴だ。陣内孝則率いるザ・ロッカーズはなんとなく知っていたが、その他は名前程度しか知らなかったので、動いている彼らを見るのはなかなか新鮮だった。
今ならその気になればYouTubeなどで簡単に見られるのだろうが、スターリンが豚の生首を掲げたり、内臓を客席に放り投げたりするシーンは、話に聞いていたのはこれか!と軽く感動した。とにかく咆哮するだけの町田町蔵(町田康)の異様にギラギラした目も印象的だった。
そんなヤバそうな人間ばかりがうろつく地区に変化をもたらすのは、政治家が地元ヤクザに持ち掛けた原発建設の案件だ。内容とは関係ないが、この映画から50年近くも経とうとしているのに今だに日本はこの時と全く同じことをやろうとしているのかと暗澹たる気持ちになってしまった。いつまでも剣の腕だけ磨き続ける時代についていけない侍を見るかのようだ。戦場に出れば何も出来ずに銃で一発で死ぬ。
いつの時代も政治家は、無駄を少なくコストをかけず、なるべく多くの人に迷惑が掛からないような効率的な政策ではなく、その逆の政策をしようとする。工数を増やして無駄に税金を使い、多くの人を巻き込んだ方が自分の影響力を誇示できるからなのだろう。それで多くの有権者は案外と納得してしまうのだから、わざわざリスクを冒して新しいことをやろうなんて思わないのも当然かもしれない。いつまでも過去の成功体験にしがみつく。
終盤はそんな権力に対するスラム街の人々の激しい反抗が描かれていく。正直、何がどうなっているのか、細かい部分はよく分からなかったのだが、皆が熱気と狂騒でエスカレートし、ヒートアップしていく様子はヒリヒリするほど伝わってきた。ストーリーがどうこうではなく、とにかく観客の心をザワつかせ、火を着けることを企んでいるような映画だった。
この手の映画は最終的には弾圧されて、あれは儚い束の間の祭だった…みたいに描かれることが多いが、この映画はそうはならなかったのが良かった。案外と政治家は、近隣諸国の動向よりもこういう映画を見て軍事力の強化を決めるものなのかもしれない。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/原案/編集 石井聰亙
原案/出演 戸井十月/泉谷しげる
出演 陣内孝則/大江慎也/池畑潤二/遠藤ミチロウ/渡辺正行/石井章雄/小宮孝泰/上田馬之助/麿赤児/平口広美/吉沢健/篠原勝之/小水一男/ギリヤーク尼ヶ崎/南伸坊/諏訪太郎/室井滋/山崎春美/手塚眞/飯田譲治/*関根恵子
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*クレジットなし **町田町蔵 名義
撮影 笠松則通
編集 山川直人/阪本順治