★★★★☆
あらすじ
高名な科学者の自殺が相次ぎ、科学界に不穏な空気が漂う中、突然訪れた警察に各国の軍や学者からなる会議に連れていかれた科学者の男。
「地球往事」三部作の第一作。
感想
どんなSFが繰り広げられるのだろうかと期待しながら読み始めたら、いきなり過酷な文化大革命の話が始まって面食らってしまった。ただこの時代を語ろうとすれば避けて通れない話題なのだろう。それぐらいこの時代を生きた人たちの人生や考え方に大きな影響を与えている。
これに加えて、相次ぐ科学者の自殺や謎の科学者集団の存在、奇妙なゲームに主人公自身に起きる不可思議な現象と、おかしなトピックばかりが語られてこれらがどのようにつながっていくのかと、俄然興味が湧いてきた。登場人物たちのキャラが皆立っていて、分かりやすいのもいい。
やがてこれは地球外生命体とのコンタクトを描いた物語だと分かって来るのだが、エイリアンと地球人の直接のやり取りを描くのではなく、エイリアンの存在を知って特別な何かを期待し、活動を始めた人たちとの対立が描かれていくのが面白い。
しかし、自分たちの野望が果たせず自爆テロ的に地球滅亡を企むパターンはわりとよくあるが、ただシンプルに人類滅亡を目標とするパターンは珍しいかもしれない。しかも悪の首領がひとり先導するのではなく、賛同者が大勢集まる集団としての動きだ。
しかし、そういう人らも多いだろうなと、この事態にあまり違和感を感じない時点で、だいぶ人類は終わっているのかもしれない。貧富の差は広まり、虐げられた人は虐げられたままで、環境破壊も放ったらかしのまま何もしようとしない人類に、失望している人は多そうだ。
終盤に出てきたエイリアンたちが次元を操る話は難解で、少し読み進めるのが辛かったが、それ以外の科学的な話は一見難しそうながらもなんとか理解できるものが多かったので、そこは安心した。だがこのエイリアンが人類の発展を阻止するために企んだ作戦には感心させられた。確かに人類のやる気を失わせるには十分だろう。これは文化大革命が中国自身に及ぼした影響と似ているかもしれない。
敵の集団に大掛かりな仕掛けで打撃を与えるシーンは、荒唐無稽で馬鹿っぽさを感じないわけでもなかったが、スケールのでかい話で楽しめた。そして迎えるラストは、まだ何も始まってはいないが、まだ終わりが決まったわけでもないと希望を抱かせる展開で、明るい気持ちになれた。
著者
劉慈欣
登場する作品
「白求恩を記念する(纪念白求恩)」 毛沢東
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