BookCites

個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「夜を走る トラブル短篇集」 2006

夜を走る トラブル短篇集 (角川文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 客への不満が募り、酒が飲みたくなってしまう元アル中のタクシードライバーを描いた表題作など、トラブルにまつわる話を集めた短編集。

 

感想

 局員がスト中のため自分たちの手で番組を放送する羽目になったラジオ局の重役たち、学生運動に巻き込まれてしまった教授、なぜかトイレに行く必要がなくなった男など、トラブルにまつわる短編が収められている。どれも毛並みが違うものになっていて、バラエティに富んでいる。

 

 そんな中で、子どもを誘拐された主婦を描いた「ウィークエンド・シャッフル」が可笑しかった。誘拐で気が動転している主婦に次々と厄介ごとが襲いかかる。普通ならそれらになんとか対処しようとワチャワチャするのだが、この主婦はキャパオーバーしたのか、思考停止して何もしない。

 

 

 それどころか開き直って掻き回す側になり、逆に周囲を困惑させてしまう始末だ。当然、事態は悪化していく。そのドタバタの荒唐無稽さが面白いが、不幸が起きたりしながらも、最終的にはなんだかんだでなぜかうまい感じに収まってしまうのも、キツネにつままれたような不思議な余韻があった。

 

 しかしこれもそうだったが、いくつかの短編で割とカジュアルに男が女を襲う描写があるところに、ワイルドな昭和を感じてしまう。もちろん、フィクションなので無茶苦茶してやれ、という意図もあるのだろうが。

 

 その他、「露出症文明」も興味深かった。テレビ電話についての話だが、そんなものを使いたがる奴なんて露出症の奴くらいだろう、と毒を吐いている。テレビ電話なんてもちろんなかった半世紀ほど前の短編だが、まるでスマホ時代を予見しているかのようで感心してしまった。「自己顕示欲」というワードも出てくる。

 

 そして、妻が一日中テレビ電話にかじりつくようになって困る、男の悩みがまた増えた、という話になっていく。だがこれは当たらなかった。実際には女だけでなく男も夢中になっている。露出症で自己顕示欲の塊なのは女に限った話ではなく、男もだった。

 

 

著者

筒井康隆

 

収録作品

経理課長の放送

悪魔の契約

夜を走る

竹取物語

腸はどこへいった

メンズ・マガジン一九七七

革命のふたつの夜

巷談アポロ芸者

露出症文明

人類よさらば

旗色不鮮明

ウィークエンド・シャッフル

タイム・マシン

わが名はイサミ

 

 

 

登場する作品

「わが名はイサミ」

「エノケンの近藤勇」

 

 

関連する作品

「ウィークエンド・シャッフル」

映画化作品

bookcites.hatenadiary.com

 

 

この作品が登場する作品

bookcites.hatenadiary.com

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com