★★★★☆
あらすじ
無免許運転で歩行者を轢いて死なせてしまった少年を担当することになった家裁調査官。
感想
不注意で人を轢いてしまった人と、狙って人を轢いた人では、どちらが罪が重いのか?これから犯罪を犯そうとする可能性が高い人物であれば、その前に殺してしまってもよいのか?罪を犯した人間には同様の事をしても良いのか? 単純にイエスやノーでは答えられない、答えたくない問いを問いかけてくる。加害者側にしたら色々と言い分があるにしても、被害者側から見ればどんな理由であってもじゃあ仕方ないか、とはならない。
そんな重いテーマを軽やかさすら感じる物語に落とし込んでくるのだから、著者はすごい。それに貢献しているのは、主人公の先輩のキャラクターによるところが大きいだろう。出鱈目なことばかりをやっているように見えて、常識にとらわれない発言は時々芯を食ったことを言う。いい加減なように見える言動も、実は世間の枠に囚われないように抗っている結果のようにも見える。
当事者ではないにもかかわらず、当事者の気持ちを代弁しようとする人物を、僕は少し警戒する。あの人はきっとこう思うはずだ、と言い切れる人は、自分を正しいと思いすぎているきらいがある。当事者にとって、ありがた迷惑になることを考えていない。
p56
世間はすぐに杓子定規で物事を捉えたがる。世の中で起きていることを自分の中で処理をするのにそれはすごく便利だし、模範解答的な発言をすれば正しいことをしている気分になって気持ちがいい。最近ではSNSでそんな言葉があふれている。
だけど世の中はそんなに単純じゃない。簡単に善悪を決められないことも多い。そんな複雑な問題を主人公たちは、杓子定規を超えた解決方法はないかと模索し、試行錯誤している。この模範解答をして気持ちよくなって満足してしまわない、何とか最高のアドリブをひねり出そうとする姿に、とても好感が持てる。正解のない世界に、明るい兆しを感じさせてくれるラストだった。
ただ、ジョン・レノンの「Power To The People」の替え歌のくだりだけは、あまり意味が分からなかった。「上司に力を」って、圧力を加えろって事なのか、権力を与えよって事だったのか。原曲から考えると権力を与えよってことになると思うのだが、それだと意味が通じないような。上司が頑張ってさらにその上の上司に文句を言ってくれって事だったのか?
著者
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