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「短編ミステリの二百年〈1〉」 2019

短編ミステリの二百年1 (創元推理文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 江戸川乱歩による「世界推理短編傑作集」以降に書かれた作品も含めて厳選した短編ミステリ集。シリーズ第1巻。

 

感想

 厳選した短編ミステリが収められたアンソロジーだ。第一巻にはミステリには詳しくない自分には、辛うじて名前くらいは聞いたことがあるような作家の作品が収められている。

 

 そんな中にサマセット・モームやウィリアム・フォークナーといった文豪と呼ばれるような作家の作品も含まれているのは意外だった。だが今でもミステリ作家ではない作家の作品にもミステリー要素はあったりするし、彼らの中に流行りのジャンルに挑戦しようという気持ちもあったのかもしれない。

 

 これらの中で一番面白かったのは最初に収められた「霧の中」だ。ある事件について、集まったメンバーがそれぞれ関与した部分のみを語り、徐々に全体像が浮かび上がってくる。それぞれ単独の話としても面白く、なんとなく映画ぽい構成のミステリだ。最後のオチも決まって読後感が気持ちいい。

 

 

 その他の短編は、途中までは面白く読めるのだが、終盤になるともやっとしてしまうものが多かった。このオチはどう捉えるべきなのかと考えてしまうものもあり、キレがない。だが、この後を引く感じがいいのだろう。

 

 モヤモヤする気持ちを解消してくれるような解説が巻末にあると個人的には嬉しかったが、残念ながら付いていない。その代わりに収められているのが、編者による評論だ。

 

 この評論は、二百年の短編ミステリを振り返る、というものになっている。だがまったくミステリに詳しくない自分には、よく知らない作家の読んだことのない作品について、150ページにも渡って延々と語られるのはとてつもなく辛かった。

 

 これは、どうしてそれは選んであれは収録しなかったのだ?などと短編集のチョイスに意見を言えるくらいの上級者に向けたものだろう。入門者向けではない。だが、そういう上級者だけが楽しめる評論があってもそれはそれで良い。

 

 シリーズの各巻末にはこの評論の続きが収められているようだが、短編集とは切り離し、別物と考えた方が良さそうだ。初心者でもたくさんミステリーを読んだ後で改めてこの評論を読めば、きっと興味深く感じられるのだろう。それまでは無理をせず、この部分は読まずに寝かせておくのも手かもしれない。

 

著者

リチャード・ハーディング・デイヴィス/ロバート・ルイス・スティーヴンスン/サキ/アンブローズ・ビアス/サマセット・モーム/イーヴリン・ウォー/ウィリアム・フォークナー/コーネル・ウールリッチ/リング・ラードナー/デイモン・ラニアン/ジョン・コリア

 

収録作品

「霧の中」 リチャード・ハーディング・デイヴィス

「クリームタルトを持った若者の話」 ロバート・ルイス・スティーヴンスン

「セルノグラツの狼」 サキ

「四角い卵」 サキ

「スウィドラー氏のとんぼ返り」 アンブローズ・ビアス

「創作衝動」 サマセット・モーム

「アザニア島事件」 イーヴリン・ウォー

「エミリーへの薔薇」 ウィリアム・フォークナー

「さらばニューヨーク」 コーネル・ウールリッチ

「笑顔がいっぱい」 リング・ラードナー

「ブッチの子守歌」 デイモン・ラニアン

「ナツメグの味」 ジョン・コリア

「短編ミステリの二百年」 小森収

 

 

登場する作品

「霧の中」

虚栄の市 全六冊セット (岩波文庫)

「トムとジェリーのロンドン見聞録(Life in London: Or, The Day and Night Scenes of Jerry Hawthorne, Esq., and his Elegant Friend Corinthian Tom (Cambridge Library Collection - British and Irish History, 19th Century))」

「他人の銭(L'Argent des autres (French Edition))」

「ほんの紙切れ(A Scrap of Paper)」 ヴィクトリアン・サルドゥ

 

「創作衝動」

二輪馬車の秘密【完訳版】 (扶桑社BOOKS)

 

「アザニア島事件」

黒いいたずら (白水Uブックス 67)

 

 

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