★★★☆☆
あらすじ
3人の子供たちが外の世界と接触しないように、広い邸宅の中だけで育てている夫婦。ギリシャ映画。
感想
子供たちに名前も付けず、外に出さず、情報を遮断して広い邸宅の中で育てる夫婦。正直、その意図は分からないところがある。外の世界は成長に悪影響だから、子供のためにそれを遮断している、というのがありそうな答えだが、名前を付けなかったり、あまり愛情を感じさせる行動もないので、それは疑わしい。父親の威厳を守り家族を支配したかったということなのかもしれない。
年頃の子供たちだが、そんな育て方をしているで当然、その行動は幼い。人形を切り刻んだり、動物を殺すのも幼児の残虐性ということなのだろう。しかし、充分に成長した若者たちがそんな幼さを見せるのは、かなり不気味だ。そしてそこに閉ざされた世界で暮らしているという歪さが加わって、狂気を秘めた不穏な空気が子供たちの間に漂っている。
締め切った部屋の空気が籠ってしまうように、人間も閉ざされた空間にいるとおかしくなってしまう。彼らの姿を見ていると、やはり人間も風通しの良い場所にいることが必要だ、ということを実感させられる。序盤の寄りばかりで引きの映像が少なく、全体を把握しづらくしているのは、それを示唆するためなのかもしれない。
そしてここまで特殊ではないが、子供に悪影響を与えるかもしれないと、ゲームやアニメなど何かを禁止するということを、大人は皆やっているという事は自覚しておく必要があるだろう。禁止することで、同じように子供の中に何か歪なものが生まれているかもしれない。
子供たちの閉ざされた世界は、唯一外部から招き入れていた若い女性が少しずつ変えていく。しかし、この女性は年頃の息子の相手をさせるために呼び入れているのだが、それなら娘たちにも男をあてがうべきなのでは?と思ってしまった。どちらにしてもその後の展開も含めて狂っている。
そんな中で、外の世界を感じ関心を高めていく娘。それに映画が重要な役割を担っているのはちょっと面白い。「世界を知るには映画が有効」なんて、さすが映画業界に身を置く者の主張だ。そして迎えるエンディング。当然の結末だが、そこで終わりかという呆気なさもあった。
あまり登場人物たちがべらべらと喋らない静かな映画だが、危うい空気に満ちていて緊張感がある。そしてこの特殊な設定ならではの笑いも散りばめられている。特に終盤の、クライマックスともいえるシーンでの子供たちの犬のモノマネは、まるでこの映画全体が前振りの長いコントかと思ってしまって可笑しかった。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 ヨルゴス・ランティモス
出演 クリストス・ステルギオグル/ミシェル・ヴァレイ/アンゲリキ・パプーリァ/マリー・ツォニ/クリストス・パサリス/アナ・カレジドゥ