★★★★☆
内容
1936年生まれの映画評論家・フランス文学者である著者による映画にまつわる話。
感想
「映画史特別講義」と硬いタイトルがついているが、キッチリとした授業のようなものではなく、テーマを決めてそれをについて著書が思いつくままに考えを述べる形式の内容となっている。著者にインタビューをしたものをまとめた語り下ろしの本ということのようだ。
読んでいていちばん感じるのは、著者の映画に対する愛情の深さだ。最初は、古い映画のタイトルばかりがよく挙がるのは著書が高齢だからかと思っていたのだが、その後は逆に、多くの人が存在すら知らなさそうな最近の映画の名前がたくさん出てきて、この人は現在進行形で今もずっとたくさん映画を見続けているのだなと感心してしまった。映画を見る意欲がいまだ旺盛なのはすごい。そして、新旧関係なく良いと思ったものはしっかりと褒め、相手がどんなに若かろうが謙虚な姿勢で敬意を払っているのも好感が持てる。
それからみんなにもたくさん映画を見て欲しい、日本映画ももっと盛り上がって欲しいと願っていることも強く伝わってくる。そのためなら映画のクラウドファンディングのようなものにもお金を出すし、客寄せパンダ的なことも喜んでする。さらには嘘をつくことさえも辞さない柔軟さまであるとは意外だった。偏屈な難しい人かと思っていたが、映画に関しては純粋まっすぐな人だった。
蓮實重彦さん、報道陣に「馬鹿な質問はやめていただけますか」 三島由紀夫賞を受賞 | ハフポスト NEWS
成瀬と言ったこともあるわけですが、日本人たるもの、しかも国を愛する者であろうとする限りは、溝口健二を見ていないやつは反日主義だといわざるを得ない(笑)。
p74
著者の純粋まっすぐな映画への愛ゆえに、読んでいると痛烈な批判や時にはこんな暴言まで飛び出すので思わず笑ってしまう。この他にも、くだらないことを言った誰誰は私の殺人リストの上位にリストアップされている、みたいな物騒な話も出てきたりする。ひとりよがりで支離滅裂で、その極端さが面白いわけだが、SNSで何かと「反日」と口走る人たちは、同じようなことをしていることに気付いて欲しいものだ。彼らは冗談でなく本気で言っているから頭が痛い。ひとりよがりな自らの滑稽さに気付いていない。
まだ見ていない映画の名前がたくさん出てくるので若干苦しい部分もあったが、著者のキャラも含めて楽しんで読むことが出来た。映画の魅力とは何か?とか安心する映画ばかりを見ていては駄目だとか、考えさせられる言葉も多かった。
そしてやっぱり古い映画もちゃんと見ておかないとなと思わせてくれる本でもあった。著書にお前は反日主義か?と詰められたくないし。
著者
蓮實重彥
登場する作品
「「残菊物語」論」 蓮實重彦
ジョン・フォードを読む―映画,モニュメント・ヴァレーに眠る (ブック・シネマテーク 7)
酔眼のまち-ゴールデン街 1968~98年 (朝日新書 79)
映画監督 増村保造の世界〈上〉“映像のマエストロ”映画との格闘の記録1947‐1986 (ワイズ出版映画文庫)