★★★★☆
内容
平成と令和の小説について語り、世の中を考察する対談集。
感想
雑誌「Sight」の企画で毎年年末に行われていたその年の本に関する対談と、平成、令和の小説に付いてそれぞれ語った対談が収められている。雑誌分は2011年から2014年分までの対談が収録されており、東日本大震災で世の中が打ちひしがれていた時から、年が経つにつれてつれて次第に平静さを取り戻していったその空気感が伝わって来て興味深い。
特に震災直後の、世間が本なんて読んでいる場合か、となっている時に、それでも作品を発表した作家たちの話は面白かった。とりあえず何かリアクションをしなければと感じた時は自身の旧作の再利用をしたくなるだとか、生々しさをさけてファンタジーぽくなるだとか、語っているのが作家である高橋源一郎だけに説得力があった。
また、その年に発表された小説について語っているだけなのに、なんとなく現在の世の中の姿が浮かび上がってくるのがスリリングだ。
かつては主に男性が書き手で、家長たる父親との確執ばかりが描かれていたのに、今や母と娘のこじれた関係を描く女性ばかりとなり、男は家庭の中で空気になっているだとか、それでもかつて男たちの前に立ちはだかっていた父親たちは、年老いたが未だ存在感は残っているだとか、様々な見立てが飛び出してくる。2011年よりも前の、この本には収録されていない対談も読みたくなった。
後半は、平成、令和の小説についてまとめて語られていく。コロナ禍の話もあって盛りだくさんだが、完全にコロナ禍が終結する前の対談なのでちょっと物足りない。だが、この30年間の日本はずっと下り坂で、人々はどんどんと貧しくなっている前提で語られ、実際に小説もそんな風な内容に変化していっているという話は、事実を突きつけられるようで何だか悲しかった。
そんな世の中で、人々は自分探しをするのではなく、世間に埋没して目立たぬようにそっと生きていこうとしている、という指摘は鋭い。そして手段を選ばずに目立とうと試みる一部の人間たちがトリックスター的に世間を振り回しており、それを多くの人がなんとなく受容してしまっているなんて、なかなかのディストピアに思えてくる。
二人の会話が刺激的で面白く、いろんな小説をもっとたくさん読みたくなる本だ。
著者
高橋源一郎/斎藤美奈子