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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「私の文学史 なぜ俺はこんな人間になったのか」 2022

私の文学史: なぜ俺はこんな人間になったのか? (NHK出版新書 681)

★★★★☆

 

内容

 作家・町田康が、自身の文学のルーツや創作の裏側、書くことに対する思いなどを語り尽くす。

 

感想

 自分語りなどしなさそうな著者が自身のことを語る。単純にそれだけで面白い。青年期には北杜夫や筒井康隆を読んでいたことも分かり、なんだか意外な気がしたりもした。それから当たり前の話ではあるが、彼も子供の頃には両親からお小遣いを貰って本を買ったりしていたのだなとほっこりした。あまりイメージが沸かないが、彼もありふれた普通の少年時代を過ごしてきたわけだ。

 

 そして著者は、文学に対する様々な考えを赤裸々に語っている。ただ、講演の内容をまとめたものだからというのもあるかもしれないが、正直なところ、分かったような分からないようないまいちピンとこない部分も多かった。

 

 

 だがそれは著者の説明が下手とかそういうことではなくて、普通の人では簡単に理解できないところまで思考を重ねているからなのだろう。何かについて軽く考えて結論を出して終わり、ではなく、その結論をもとにさらに深く考えている。この本で語られているのは、それを何度も繰り返した上でたどり着いた考えのように感じた。だからそれは、何も考えていなかった人間がすぐに理解できるレベルのもののはずがない。

 

 そうやってたどり着いた考えを、著者がちゃんとそのまま伝えようとしているところは好感が持てる。どうせお前らなんかにはわからないだろうとお茶を濁そうとはせず、何とか伝われと努力している。聴衆(読者)に対する信頼を感じる。とても誠実な態度だ。

 

「なめんな、このクソwordが。何、勝手に変換するんや。俺は文学者やぞ」と。

p234

 

 そんな中で時折出てくる、著者らしさを感じる言葉には思わず笑ってしまう。

 

 文学を音楽に例えてみたり、いくつか分類して分析して見せたりする話は分かりやすく、そして面白かった。また創作に関する話も興味深い。特に、誰かに影響を受けることを恐れない、オリジナルを生み出そうなどと傲慢なことは考えない、という話はそうなのかもなと感心した。音楽もそうだが、過去の様々なものがミックスされて新しいものが生み出されている。完全にオリジナルなものなどまずない。

 

 著者がいかに物事に対して深く考えているかがよく分かる内容だった。今や入門書の1ページ目に書いてあるようなことを知っただけで、すべてをわかったような気になってしまう人で溢れる世の中だ。そして深く考えることなく反射的に、専門家にすらマウントを取ろとしている。そんな世の中では、著者のようにすぐに動じず、深く考えられる能力が重要になってくるような気がした。

 

 物事にオートマチックに反応し、何かに熱狂して自分を見失った人生なんて、生きている意味がない。文学の話だが、どのように生きるべきかを考えさせられる本でもあった。

 

著者

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登場する作品

「物語日本史 2 遣唐船物語 羅城門と怪盗」 中沢圣夫

「物語日本史」 学習研究社

羅生門 デジタル完全版

万葉集 全訳注原文付(一) (講談社文庫)

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船乗りクプクプの冒険 (集英社文庫)

遙かな国 遠い国(新潮文庫)

にぎやかな未来 (角川文庫)

笑うな(新潮文庫)

幻想の未来 (角川文庫)

「経理課長の放送」 「農協月へ行く (角川文庫)」所収

夜を走る トラブル短篇集 (角川文庫)

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「セヴンティーン」 

*所収

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「政治少年死す」 「大江健三郎全小説 第3巻 (大江健三郎 全小説)」所収

中原中也全詩集 (角川ソフィア文庫)

浄土 (講談社文庫)

古事記 (岩波文庫)

「掛持ち」 

*所収

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男の愛 たびだちの詩

大菩薩峠(全巻) 改版

パンク侍、斬られて候 (角川文庫)

半七捕物帳〈1〉 (光文社時代小説文庫)

「宇治拾遺物語」 「日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集08)」所収

猫とねずみのともぐらし (おはなしのたからばこ)

蘭学事始 (岩波文庫)

古事記 (岩波文庫)

こぶとりじいさん

赤ずきんちゃん

おらおらでひとりいぐも (河出文庫)

土の記(上)

 

 

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