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「ケリー・ギャングの真実の歴史」 2000

ケリー・ギャングの真実の歴史

★★★☆☆

 

あらすじ

 貧しい移民の子としてオーストラリアで生まれ、理不尽な扱いを受けながら育った男は、やがて抑圧と戦う義賊となる。

 

 実在したオーストラリアのヒーロー、ネッド・ケリーを題材にした作品。ブッカー賞受賞作。

ネッド・ケリー - Wikipedia

 

感想

 実在したオーストラリアの義賊が主人公だ。幼少期から物語が始まるが、そこからひしひしと伝わってくるのは、未開の地における貧しい開拓者たちの過酷な生活ぶりだ。生活は不安定で両親は喧嘩ばかり、なのに子だくさんでいつも困窮している。しかも、主人公一族もそうなのだが周囲をうろつくのは荒くれ者ばかりで、犯罪や争いごとは日常茶飯事だ。家の中だけでなく外でも油断はできず、こんな環境でまともに子供が育つわけがない。

 

 そしてこの悪条件に拍車をかけるのが腐敗した警察の存在だ。逆に彼らは何か社会の役に立つことをやっているの?と聞きたくなるくらい、悪いことしかしていない。有力者の横暴を見て見ぬふりをして、貧しく弱い者たちには執拗に嫌がらせをする。確たる証拠もないのに逮捕したり、若い女に手を出したりする。

 

 

 彼らにもノルマが厳しいなどの何らかのやむを得ない事情があるならまだ分かるが、理由もなくそんなことをやっているのが恐ろしい。考えられるとしたら単なる暇つぶしだが、それはそれでたちが悪い。もともと未開の地だったし、中央からの目も届かない場所なのでやりたい放題なのだろう。西部劇に悪い保安官がよく出てくる理由が分かったような気がした。

 

 ただでさえ過酷な場所に、秩序ではなく不公平や理不尽をもたらすだけの公権力に人々が反感を抱くのは当然だ。主人公も自身や家族、仲間が何度もひどい扱いを受ける中で反発を強めている。権力と戦う義賊を助け、応援する土壌はすでに十分に出来上がっていた。

 

 主人公は十代を終える頃には何度か逮捕され前科者となっていたが、これは家庭環境や周囲の偏見、そして腐敗した公権力など、地域社会の総合力で彼を犯罪者に育ててしまったような印象がある。彼の立場に置かれたら、ほとんどの人は犯罪者になってしまうだろう。その経緯にはやるせないものがあった。

 

 そしてついに彼の社会に対する不満が爆発し、民衆のために力強く立ち上がったのかと思いきや、そういうわけではなかった。ある事件をきっかけに警察に追われる身となり、追い詰められていく過程で義賊のようになっていった。自らの意思で蜂起したわけではないので心湧きたつものはなく、こうなってしまった以上はもうやるしかないと、むしろ悲壮感が漂っていた。


 終盤で、ネッド・ケリーの代名詞とも言える(オーストラリアでは)有名な鉄仮面のエピソードも出てくる。これを付けて義賊として暴れ回っていたのかと思っていたが、最後の戦いで使っただけだったらしいのは意外だった。だが人々が語りたくなるようなインパクトのある姿だっただろうことは容易に想像がつく。

 

 最後は義賊によくある悲しい結末だ。爽快感のあるヒーロー活劇ではなく、彼の境遇に同情してしまうような物悲しさのある物語だった。だが小説ではあるが、大まかにしか知らなかった彼のことを詳しく知ることが出来たのは良かった。

 

 それから警察に追われる主人公らを、彼の妹たちがサポートしまくっていたのは意外性があって面白かった。こういう時、女はただ家に籠もって泣き濡れているだけ、そして二度と会うことはなかった、となりそうなところを、陰で彼らを支えまくり、何度も会いまくりと大活躍だったのは頼もしかった。唯一、この物語で爽快だったところかもしれない。彼女たちを主人公にしても面白い物語が出来るような気がした。

 

著者

ピーター・ケアリー

 

 

 

登場する作品

 

 

登場する人物

ネッド・ケリー

 

 

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