★★★★☆
あらすじ
サックスプレーヤーになることを目指し、仙台から上京した青年は、バンドを組み、国内最高峰のジャズライブハウスで演奏することを当面の目標に定める。
感想
ほぼ独学でサックスを練習し、プロを目指して東京にやってきた青年が主人公だ。彼が夢に向かってステップアップしていく姿が描かれる。
主人公のターニングポイントはいくつかあったが、見ていて一番ドキドキしたのは、すでにライブハウスでも演奏している同い年のピアノマンにバンドを組もうと声をかけた時だ。
主人公の実力がどの程度のものなのかさっぱりわからないので、下手くそだと鼻で笑われ、自惚れが強いだけの世間知らずの田舎者で終わる可能性だってあった。だがこれは、プロを目指す以上はいつかは通らなければいけない関門だ。「よっぽど自信があるのか、ただのバカか」と半信半疑の人たちに、自分の力を認めさせなければならない時が必ず訪れる。
もちろん主人公は実力を証明し、バンドを組むことになる。そしてライブを行うようになっていく。主人公だけでなく、バンドメンバーそれぞれのエピソードを描きつつ、バンドが成長していく姿が描かれていく。
メンバーが問題を抱えた時、通常の青春音楽もののように皆で支えようとするのではなく、突き放すのが印象的だ。これがジャズの特徴なのかもしれない。結局、問題を解決できるのは本人だけだ。他人はどうすることも出来ない。
ここで下手に手を差し伸べてしまうと、手助けされただけなのに解決できたと本人が勘違いしてしまい、いつかその報いに苦しむことになる。助けないことが本当の優しさであるときもある。現実世界ではむしろそのほうが多いかもしれない。
それから、壁にぶつかり乗り越えていくのはメンバーだけで、主人公でないのも興味深い。主人公は常に自分を信じ、思った通りに突き進んでいるだけだ。メンバーは彼の背中に勇気づけられ、変わっていく。
もはや主人公は別格の存在で、あらかじめ将来は約束されているかのようだ。ジャズの巨人たちにも同じようなイメージがあるが、この世界には、神話のような物語を求めてしまう何かがあるのかもしれない。
クライマックス前に起きる悲劇は、今どき珍しいベタなフラグが満載で、逆に別の展開があるのかと期待してしまったが、愚直にまっすぐな主人公の性格のような演出だった。ある意味で新鮮だ。
肝心のライブシーンは、一流ミュージシャンが担当しているので、演奏は間違いないのだろう。ただ耳が肥えていないと、すごいのかすごくないのかが即座に判断できないところがある。しかし、今すごい演奏をしてますよと、すぐにわかるような多彩な映像演出が施されているので分かりやすくて良い。迫力があって見ごたえのあるライブシーンとなっている。
原作は読んでいないが、音楽を聴かせることのできない漫画では、どうやってこれらを成立させているのだろうと気になった。
様々な立場からジャズに関わる人たちの熱い思いも伝わってくる。すごい奴とそんな存在を待ち望む人たちの物語だ。
スタッフ/キャスト
監督 立川譲
出演(声) 山田裕貴/間宮祥太朗/岡山天音/木下紗華/青山穣/乃村健次/木内秀信/東地宏樹/近藤雄介/須田美玲/高橋伸也/加藤将之/四宮豪
音楽 上原ひろみ