★★★★☆
あらすじ
幼くして孤児となり、虐げられて生きてきたロシアの女は、自由になるためにKGBの殺し屋となる。
感想
チンピラの男に支配されて惨めな生活を送っていた女が、自由を求めて殺し屋になる。同じリュック・ベッソン監督の「ニキータ」を彷彿とさせる物語だ。ただこの映画では主人公は自由を求めて苦悩はするが、泣きべそをかきながら仕事をすることはない。訓練シーンもない。彼女を指導した上司と恋に落ちるのは同じが。
主人公は最初、フランスのモデルエージェントにスカウトされたロシアの市場のマトリョーシカ売りとして登場する。いわゆるシンデレラストーリーとして始まるのだが、途中で突然殺しを行なう。そこから時間が数年前に戻って、彼女が実はKGBの殺し屋であること、そしてそうなった経緯が明らかにされる。それから再度そこに至るまでの過程が描かれていくのだが、それまで見えていた景色が全然違ったものに見えてくるから面白い。すべては仕組まれたことだった。
映画はこの時間軸を遡る手法が多用される。何度も現在と過去を行ったり来たりするので若干混乱するが、生き馬の目を抜く騙し合いの世界の、一瞬たりとも油断できない緊張感が伝わってくる。何度も予想を裏切られることになるので、順調そうに物事が進んでいても何か裏があるのでは?と見てるこちらまで疑い深くなってしまう。諜報能力が多少上がったかもしれない。
元々頭がよくて身体能力も高く、しかもモデルとして活躍できるくらいの美貌まで持っているのに、なぜ彼女が惨めな生活を送っていたのかは解せないところがあるが、貧困はチャンスを遠ざけ、意欲まで奪ってしまうのだろう。まさに貧すれば鈍すだ。一流の殺し屋となった後も、時おり我を忘れて男を求める彼女の姿には違和感があったが、貧しかった時の名残がまだあるからなのかもしれない。
他の登場人物たちの中では、ヘレン・ミレン演じる主人公の女上司が印象的だ。部下を使い捨ての道具のように扱い、なんでもお見通しとでもいうような態度を崩さない。さすが厳しい諜報の世界で生き残っているだけのことはある。食えないバケモノ感があった。彼女が要所要所でいい仕事をしている。
ラストはKGBとCIAを相手に順調すぎる気がしないでもなかったが、彼女は自由になれないのなら死んだ方がましだと覚悟が決まっていたので、それがうまく作用したのだろう。守るものが何もないから大胆に行動できた。
安心できない展開が続き、ダレることなく楽しめた。
それからどうでもいい話だが、劇中で流れる曲が知っている曲のサビとよく似ていて、微妙に違う感じが個人的にちょっと気持ち悪かった。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 リュック・ベッソン
出演 サッシャ・ルス/ヘレン・ミレン/ルーク・エヴァンス/キリアン・マーフィー/レラ・アボヴァ/アレクサンドル・ペトロフ/アラン・フィグラルツ
音楽 エリック・セラ