★★★★☆
あらすじ
人畜無害の税務署署員は、人が良すぎるゆえに不正をしてしまうが、開き直って世の悪事を暴こうとする。
感想
冒頭は、「日本新名所」として戦後日本で見られるようになった光景を小ネタを挟んで紹介していく。このまま最後までこんな調子かと少し不安になったが、そんな事はなく、その後本編が始まり安心した。そして、この冒頭の短いシーンのつなぎ合わせが、本編の伏線になっていて上手い構成だ。
しかし、取り扱っているテーマが政治の腐敗や貧困、人口増、原爆と、かなり社会派だ。それをかなりきつめの笑いを取り入れて描いていてちょっと感心してしまった。今でも、なのか、今また、なのか分からないが、政治の腐敗や収賄、官民の癒着があるわけだから、こんな世相を斬るような強烈な作品が出てきてもおかしくはないはずなのだが、そうはなっていない。今はそういうことが出来る環境が整っていないというのだったら劣化しているということなのだろう。
登場人物たちは皆強烈だが、なかでも貧乏子だくさん一家の2階の下宿で一人、原爆を製造する女がインパクトがあった。しかも家族全員を広島の原爆で失った彼女の言い分が、「平和を維持するために原爆をつくる」だからなかなかだ。今でもそういうことを言っている人は多いが。
笑いを散りばめながらも、最後はうまくまとめていい話になるのかと思ったら、最後まで滅茶苦茶だったのは好感を持てる。なんなら終盤が一番暗くて酷い。貧乏過ぎて死ぬことも出来ないなんてもはや皮肉過ぎて笑えないのだが、でもそれがグッとくる。
終盤のマグロを食べたら死ぬ、のくだりが良く分からなくて、昔はマグロをあまり食べなかったと聞いたことがあるので、それに関連してそんな言い伝えがあるのかな、と思ったら、「原爆マグロ」というものがあったらしい。これも時事ネタだった。
築地市場に埋められた「原爆マグロ」を知っていますか?(BuzzFeed Japan) - Yahoo!ニュース
スタッフ/キャスト
監督/脚本 市川崑
出演 木村功/久我美子/山田五十鈴/伊藤雄之助/加藤嘉/左幸子/北林谷栄/織本順吉/西村晃
音楽 團伊玖磨