★★★★☆
あらすじ
拳銃をスリに掏られてしまった刑事は、ベテランの刑事と共に行方を追う。
感想
刑事が拳銃を盗られてしまったというのに、警察のリアクションは薄い。とてものんびりとしていてのどかだ。しかしそれも戦後まもなくのため、世に拳銃が溢れていたからでもあるのかもしれない。
警察ののんびりとした対応とは反対に、責任を感じて必死に拳銃を取り返そうと焦る三船敏郎演じる主人公。これは当然だろう。盗まれた現場で見かけた犯罪歴のある女性に目をつける。しかし捜査方法はいたってシンプルだ。直接、拳銃はどこだ?と尋ね、答えてくれなかったら執拗に付きまとう。付きまとわれる女も言っているように、普通に人権侵害だ。
女からヒントをもらい、次は拳銃ブローカーと接触を図るために場末の街をうろつきまわる主人公。これが結構長い。延々と歩き続ける主人公の姿が描かれ、彼の執念が伝わってくる。しかし、昔はこれぐらいしか捜査方法がなかったのか。忍耐と執念、まさに根性が試される仕事だ。効率を求める人には生きづらい時代だったのかもしれない。
それにしても、拳銃を貸すという闇商売があったというのは面白い。借りる側は当然強盗などの良からぬことを考えていて、彼らから担保を取って拳銃を貸し、返却時に強盗の戦利品の何割かを受け取る、というシステム。何でもありの混乱に満ちた時代だから成立する商売だ。
ここまで犯罪歴のある女のあとをつけたり、闇市を彷徨ったりするシーンが長々と続くのだが、全然見ていられる。終戦直後の東京のいろんな場所の様子が映し出されていて、人々の姿や風景を見ているだけでもなかなか興味深い。後に出てくる後楽園球場での実際の試合の様子もかなり貴重な映像なのではないだろうか。打席に立つ背番号16の川上哲治の姿が映し出され、その他にも当時の著名な選手たちがプレーする様子が収められている。
この後は志村喬演じるベテラン刑事が登場して、これまでの主人公の先走りしがちな愚直一辺倒の捜査から、経験を生かした抑制の利いた捜査へと切り替わる。そして浮かび上がってくるのは、これまで背景でしかなかった苦しい状況の中で暮らす庶民の姿だ。盗まれた拳銃によって次々と事件が起こり、被害者が出ることに胸を痛める主人公の心情も描かれ、次第に単なる拳銃の行方を追うだけの物語でないことが分かってくる。
ベテラン刑事の落ち着いた聞き込みによって、明らかになっていく関係者たちのリアルな姿。そして緊迫感のある主人公と犯人の対峙シーン。どれも見ごたえがある。犯人は、同じような境遇だった主人公の、そうなっていたかもしれない姿として示すような構図は上手い。
そして自分もそうなっていたかもしれないと犯人に同情する主人公に、被害者がいる事を忘れるなとベテラン刑事に釘を刺させるのもいい。社会派だ。野良犬から狂犬に変わってしまうのは紙一重だが、そこには大きな差がある。
スタッフ/キャスト
監督/脚本
製作 本木荘二郎
出演
bookcites.hatenadiary.com志村喬/淡路恵子/三好榮子/千石規子/木村功/東野英治郎/清水元/千秋實/伊藤雄之助
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