★★★☆☆
あらすじ
チャンピオンを目指して試合を重ねるボクサーに、様々な障害が立ちはだかる。
鈴木清順監督、和田浩治、葉山良二、南田洋子ら出演。90分。
感想
チャンピオンを目指す若きボクサーが主人公だ。様々な障害が彼の前に立ちはだかる。試合で当然のように賭けが行なわれていることに驚くが、ボクサーの周辺には怪しげな人たちがウロウロしている。
そんな彼らの悪い誘いに乗ることなく、ボクシングに打ち込んでいた主人公だが、まさか悪い女の策略で道を踏み外すことになるとは思わなかった。しかも彼は何も悪くなく、女の悪事を目撃しただけだ。それなのにうまく立ち回られ、悪者にされてしまった。納得できずに抗えば抗うほど周囲との関係は悪化し、悪循環を生んでいく。
どん底に落ちた主人公は、それに加担したトレーナーの元を訪れる。ここで高品格演じるトレーナーが、場末の安アパートのベッドの上で、罪悪感から苦悩を吐露するシーンは印象に残る。ひどい奴だと思っていたが、彼には彼の事情があった。背後の窓の向こうで、真っ赤な服を着た夜の商売をしているらしき女がふらふらと漂っているのが見えるのが、また哀愁を誘う。鈴木清順監督らしい演出だ。
トレーナー同様に、彼のまわりにいた悪党たちも皆が悪い奴ではないことが分かってくる。クライマックスのタイトルマッチで、様々なしがらみを抱えて思い悩む主人公を助けてくれたのは彼らだった。彼が戦うリングの外で、悩み事が解決していく。
試合に集中できるようになった主人公が勢いを取り戻すと、周囲のざわめきが遠のき、葉山良二演じる会長の称賛の声だけがクローズアップされる。それが終わると彼に批判的だったファンの声援が次第に湧きあがり、会場を包む。そしてヒロインが叫び、熱狂の渦の中で勝負がつく。
それまではそれなりの古い映画といった感じだったが、ラストのロッキーを彷彿とさせるような心高鳴る演出は圧巻だった。遠巻きに引きの映像で撮っているのも良くて、まるで会場にいるような臨場感がある。いい余韻に浸れるボクシング映画だ。
スタッフ/キャスト
監督 鈴木清順
脚本 小川英/中野顕彰
出演 和田浩治/葉山良二/川地民夫/清水まゆみ/南田洋子/白木万理/高品格/佐野浅夫/山崎二郎/弘松三郎/藤竜也/糸賀靖雄/岩手征四郎/柳瀬志郎/久松洪介/上野山功一/高緒弘志/木浦佑三/三木正三/山口吉弘/青木富夫/織田俊彦/緑川宏/長弘/中尾彬/小野武雄/大川隆
音楽 大森盛太郎
撮影 峰重義