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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「地図のない町」 1960

地図のない町

★★★★☆

 

あらすじ

 街を牛耳る男の一味に妹を襲われた若い医師は、復讐を果たすため、男が地上げを行なっている土地に移り住む。

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感想

 街を牛耳る男に復讐を誓う医師が主人公だ。ある夜に主人公が出かけるところから物語は始まる。この日に至るまでの過去の回想を差し挟みながら、主人公の行動が描かれていく。最初は主人公が出会った人々の様子や交わした言葉の意味がよく分からないのだが、過去の出来事が明らかになるにつれ、次第にそれらがつながっていく。しっかりと練り込まれたプロットだ。

 

 そして意味深に描かれる当日の主人公にも興味をひかれる。何かは分からないが何かを企んでいることだけは分かり、彼の緊張感が伝わってきて目が離せない。映画館の二階の窓から外の通りを見張るシーンなどは臨場感たっぷりだった。凝ったカメラワークとシャープな映像も相まって、まるでヒッチコック映画のようなサスペンス感があった。

 

 

 合間に挿入される回想シーンから分かってくるのは、主人公の仇、町を牛耳る男の悪辣ぶりだ。市会議員でゼネコンでヤクザの親玉の男は、議会で競輪場や公営団地の建設を決めて自ら請け負い、暴力的な地上げでコストを削減して税金を懐に収めている。権力と暴力を手中に収めてやりたい放題だ。

 

 昔はこんなことが許されていたなんて未熟で酷い社会だったのだなと思ってしまうが、よく考えると今も大して変わらなかったりするのが哀しいところだ。政治が反社的な組織と手を結び、税金を自分たちのものにしてしまっても、今の日本では誰も驚くことすらしない普通のことになっている感じがある。

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 主人公の敵、極悪非道の悪玉を演じる滝沢修がとても印象的で素晴らしい。自分の中では冷静で冷酷な、静かな悪役を演じるイメージの彼が、この映画ではとてつもなくギラギラ、テカテカしている。暇つぶしにニヤニヤしながら猫を虐待するシーンなどは狂気が滲み出ていた。どうやっても敵わないと思わせる彼のヒールとしての存在感が、この物語をいっそう面白くしている。

 

 クライマックスは当然、主人公の復讐シーンだ。だが予想通りの素直な展開とはならず、ひねりを加えたものになっていて、さらにサスペンスを楽しませてくれる。終始むっつりしていた主人公の妹が何かカギを握っているのかと推理していたが、それは全く関係なかった。

 

 ラストは、巨悪に屈しない庶民の勇気ある姿が映し出され、骨太の社会派ドラマの様相を呈す。最後の主人公のセリフは少し喋り過ぎだったが、深い余韻が残る結末だ。全体的にかなり良く出来ていて満足感がある。ヒッチコック風に始まり、黒澤明風に終わる映画だ。もっと評価されてもいいような気がする。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 中平康

 

脚本 橋本忍

 

原作 「殺意の影」 「悪徳 (1957年) (角川小説新書)」所収

 

出演 葉山良二/吉行和子/南田洋子/浜村純/宇野重吉/滝沢修/芦田伸介/三崎千恵子/小沢昭一/佐野浅夫/梅野泰靖

 

音楽 黛敏郎

 

撮影 山崎善弘

 

地図のない町

 

 

登場する作品

映画館で上映していた作品

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