BookCites

個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「ひのえうま 江戸から令和の迷信と日本社会」 2025

ひのえうま~江戸から令和の迷信と日本社会~ (光文社新書)

★★★★☆

 

内容

 来年2026年は丙午(ひのえうま)。この年生まれの女性は、気性が激しく夫を食い殺す、という俗信がある。

 

 過去のひのえうまの歴史を振り返り、また前回のひのえうま(1966年)生まれの女性がどのような人生を送っているのかを明らかにする。

 

感想

 来年(2026年)、60年ぶりに訪れる「ひのえうま」を前に、改めてひのえうまについて考察する本だ。

 

 ひのえうまの女性に対するひどい迷信は、江戸時代から始まった。その年生まれの女性は差別を受け、出生数にも影響を与えてきた。だが皆が迷信を信じているわけではなく、迷信を信じている人たちから受ける差別を避けようとしているだけ、というのが興味深い。

 

 

 きっと一人一人に確認すれば「そんなの信じているわけない」と笑うはずだ。だが、見合い相手の女性がひのえうま生まれと知れば、念のためスルーするか、となるのだろう。実は迷信なんて誰も信じていないのかもしれないのに、こんな軽い気持ちだけで、ひのえうま女性に甚大なるダメージをもたらしていた。

 

 そして前回1966年のひのえうまは、出生数ががくんと減った(前年比46万人減)。昭和になってもそんな迷信に振り回されるのかと思ってしまうが、メディアの発達によって迷信が全国津々浦々まで浸透したことや、その前の明治のひのえうま女性が結婚できずに自殺するなど受難がひどかったことが影響しているそうだ。特にメディアの「ひのえうまの迷信に惑わされるな」というキャンペーンが逆効果になったのは皮肉だ。

 

 それから60年周期なのに廃れないのは、ひのえうまの年だけでなく、その年生まれの女性が婚期を迎える頃にも話題になるから、というのも面白い。60年毎ではなく、間にも一度、人々が気にする時期がある。

 

 前回のひのえうまで出生数が激減したのは困ったことであるが、実は避妊の知識が国民に普及した証で僥倖だと見ることもできるらしい。意図的な流産や間引きではなく、避妊だけで出生数を減らすことができるようになったということは、人々が望まぬ妊娠で不幸になることがなくなったということだ。

 

 人口の少ない昭和のひのえうま生まれは、競争率が低くなるので受験や就職でメリットがあったようだ。このメリットはほぼ学生時代のものなので、ひのえうま年生まれが中心の学年が対象となる。そう考えると、この学年の早生まれ(1967年未年)の女性は、「ひのえうまの女」とからかわれることなく、人数が少ないメリットも享受できたわけで、なんだかズルい。

 

 逆に早生まれのひのえうま女性は、からかわれるわ、メリットも受けられないわで散々だ。なんだか気の毒になってしまう。

 

 さて興味は来年のひのえうまはどうなるか?ということだが、前回のような出生数の急激な落ち込みはないだろうとの見通しのようだ。様々な理由がつらつらと挙げられていくが、次第に「そんなことより日本の深刻な少子化がヤバい」と真顔になってくる。ひのえうまがどうこうと言っている場合ではない。

 

 前回のひのえうま生まれの女性は、まずまずの幸せな人生を送っているそうで何よりだ。だがこれはひのえうまに関係なく、単に時代に恵まれたからに過ぎない。当時とは違う少子化の厳しい現実を突きつけられ、先細りしていく日本の将来に不安になってしまった。

日本人、過去最大90万人減 1億2千万人割れ間近(共同通信) - Yahoo!ニュース

 

 だが夫婦別姓の導入や女性支援など、子供を生みやすくする環境を整えるのは嫌、かといって移民を増やすのも嫌、と言っているのだから好転しそうにない。来年生まれるひのえうまの子供たちは幸せな人生が送れるのだろうかと、迷信とは関係なく、率直に心配してしまう。

 

著者

吉川徹

 

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com