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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「6才のボクが、大人になるまで。」 2014

6才のボクが、大人になるまで。(字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 再婚と離婚をくり返す母親のもとで暮らし、定期的に実の父親とも会いながら成長していく少年の姿を描く。原題は「Boyhood」。166分。

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感想

 6歳の子供が18歳になるまでの12年間が描かれる。これを実際に12年かけて撮影しているのがなんと言ってもすごい。主人公が6歳の時も18歳の若者になった時も同一人物が演じている。当然両親や姉など他の登場人物も、最初から最後のシーンまでの間に12歳分、本当に年を取っている。

 

 思春期になった主演の少年が突然映画に出ることを嫌がって、撮影中止の危機が訪れたりしなかったのだろうか?などと撮影の裏側がいろいろ気になる。だがこの撮影方法のおかげで、衣装や小道具・大道具がとてもリアルなものになっている。どんどんスリムになっていくパソコンや、ガラケーからスマホに変わる携帯電話などが代表的だが、とても自然に時代の移り変わりを表現している。その時に実際に使っているものをただ使えばいいだけだから当たり前なのだが、時代考証などする必要がなくて随分と楽そうだ。

 

 一方で後から少年時代のエピソードを追加で撮影することができないところはデメリットかもしれない。時系列に沿って撮っていくしかなく、後戻りはできない。

 

 

 映画に一貫したストーリーはなく、主人公が各年齢で体験した出来事が断片的に描かれていく。それらのエピソードが積み重ねられていく物語だ。その大半は家族とのものになっているが、中でも離れて暮らす父親との関係が良かった。子どもの頃は映画や物語の話題だったのが、次第に人生や女性の話に変わっていく。いつまでも親子で忌憚なく会話できるのは素直に感心する。

 

 父親が年頃になった娘と、そのついでに主人公にも性教育ぽい話をするシーンは可笑しかった。子どもたちが、気まずさを感じながらも通過しなければいけない儀式のようなものだと諦めて、神妙な顔をして耐えている。父親はそれを伝えることで安心するし、子供たちはそれを聞くことで両親が安心することを知っている。親子間での性の話は、意外と子供側に思いやりがあるかどうかがポイントになるのかもしれない。

 

 人間は、生きものが成長する姿を見ると自然と感動するようになっていると、個人的に思っている。だから子供時代と大人時代を演じる役者が違うような映画でも泣ける時があるのに、本当に一人の人間の12年の成長なんか見せられたらグッと来てしまうのは当然だ。だが物語に一貫性のあるストーリーを持たせなかったのは賢明だった。下手にストーリーをつけていたら、それがノイズになってしまっていたはずだ。逆にそれさえしなければ、各年代のエピソードは実は何でも良かったような気もする。断片的で分からなかった部分は、観客それぞれが想像力を働かせ、好きなように補ってしまうだろう。

 

 劇的な少年の成長に気を取られがちだが、地味に母親役のパトリシア・アークエットが良かった。父親役のイーサン・ホークはあまり体形が変わらないが、彼女は12年の時が確かに経過したことを実感させる変化を見せている。本当に12年の時を重ねているのだからどうなろうともリアルではあるのだが、彼女には本当にリアリティがあった。子どもから大人への分かりやすい変化だけではなく、大人の変化にもグッと来るものがある。

 

 最後の彼女の涙には身につまされるものがあったが、主人公が言っていたように、それでもまだ40年ほどの人生がある。案外大人になってからもその先は長い。良い時期も悪い時期も関係なく、その瞬間を大切に生きていくしかない。

 

 制作に12年をかけた驚くべき作品だが、今だとスマホがあれば個人レベルでも簡単に出来てしまうことなのかもしれない。すごい時代になったものだ。生まれたときからスマホで撮影され続けるのが普通になり、そのうちAIが貯まった写真や動画をいい感じに編集してくれるようになるのだろう。結婚式や葬式が捗りそうだ。そしてそれが当たり前の時代になった時、この映画のすごさが理解されなくなるのでは?と心配になった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/製作 リチャード・リンクレイター

 

出演 エラー・コルトレーン/パトリシア・アークエット/ローレライ・リンクレイター/イーサン・ホーク/ブラッド・ホーキンス/チャーリー・セクストン

 

6才のボクが、大人になるまで。 - Wikipedia

 

 

 

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