「日本橋」　1956

★★★☆☆

あらすじ

　ライバルと張り合い、奪った男に本気で惚れてしまった日本橋の芸者。

感想

　負けん気が強い主人公と、彼女にライバル視される人気芸者を中心にして物語は進行する。主人公はライバルから男を奪ったり、ズケズケと嫌味を言ったりしてバチバチやっている。野心の強い女だなと思っていたのだが、ある男の奥さん、と呼ばれただけで嬉しくなって舞い上がってしまったのは意外だった。男なんて立身出世のための道具くらいに考えているのかと思ったら、随分と女らしい。

　主人公は二度、ライバルから男を奪うのだが、既に別れた最初の男がかなり強烈だった。北海道の男だからなのか熊？の毛皮を身にまといて、見た目からして異様だ。そして嫌われても、罵られても、それでもあきらめずに何度でも主人公に会いに行く。簡単に言えばストーカーなのだが、ストーカーで何が悪いと開き直ってしまっているので、かなりたちが悪い。主人公の今の男に会いに行き、別れるよう理不尽に脅したりもする。

　さらには主人公に入れ込んで妻を死なせ、残った赤ちゃんには自分の血を飲ませようとする。自身は毛皮についたシラミをつまんで食べているしで不気味さが半端ない。バケモノ過ぎて関わり合いたくない男だが、それでも主人公はふとしたはずみで一晩だけ相手をしたりするから男女の仲は分からない。

　芸者たちのどこか物悲しい生き様が浮かび上がってくる物語だ。夜は生き生きとしている彼女たちが、昼間の白々しい明るさの中では急に弱々しくなって、頼りなく貧相に見えたのは印象的だった。こだわりの感じられる映像の中で、淡島千景、山本富士子、若尾文子、三人の美女たちが堂々とした演技を披露している。激しい火事など見どころのあるシーンも多い。文芸大作の雰囲気が漂っている。

女優若尾文子

キネマ旬報社

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　ただ、登場人物たちの行動に共感できないのが残念だ。時代の違いのせいなのかもしれないが、一人の男で人生を狂わす主人公も、自分は駄目な男だからとあっさり身を引くその恋人も、酷いことをされていたのに主人公に同情するライバルも、ストーカーの男の気持ちもよく分からない。どうにも彼らはみな生真面目で、自分に正直すぎるような気がしてしまう。もうちょっとズルいところや駄目なところがあってくれないと、逆に人間味が感じられない。悪くない雰囲気なのだが、ストーリーがピンとこなかった。