★★★☆☆
あらすじ
能楽の名家の後継者争いに絡む連続殺人事件に遭遇し、興味を持って調べ始めるルポライター・浅見光彦。
感想
陰影の深い映像に、事件が起きた時のザワザワとする感じ、何か重大なことに気付いた時のバタバタとする感じと、推理ものらしい雰囲気が漂っていてテイストは悪くない。このあたりの演出方法は、金田一シリーズを受け継いでいるのだろう。こなれている。
主人公・浅見光彦のどこか間の抜けたぼんやりとしたお坊ちゃん風のキャラクターも魅力的だ。これも金田一シリーズを受け継いでいるのだろうが、加藤武演じるガサツで偉そうだがどこか憎めない警部補もいい味を出している。
また、後継者を巡る事件は人間関係が複雑になって混乱しがちだが、この映画では後継候補の二人が異母兄妹なだけとスッキリとした設定になっている。誰が今の夫で誰が元夫、この子供は誰との子なんだっけ?などと頭を悩ます必要がない。推理に集中することができる。
映画には、面白くなりそうな要素が揃っている。だが期待通りにはなっていない。冗長さを感じるものになってしまっている。おそらく理由は、犯人は誰だ?と推理を楽しむ余地がないからだろう。
実の娘を何としても後継者にしたい母親や後継者を決めかねている宗家など、疑わしい人物が何人かいるのに、彼らが犯人かもよとミスリーディングを誘うような言動を取らせる演出はほぼ無い。ただ見ているだけで自然と真犯人にたどり着いてしまう。せっかく分かりやすい人間関係にして、観客に色々と推理を楽しむ余裕を与えているのに勿体ない。観客はその余裕を持て余して退屈してしまう。
後継者争いと言いながら、候補の二人が全然ガツガツしておらず、どちらかといえば継ぎたくないと思っているのは新鮮だった。ラストで犯人が明かす辛い過去も、二時間ドラマみたいではあったがこれも悪くなかった。他はほぼすべて良かったのに、肝心の推理の部分だけが残念な、なんとも言えない気分にさせられる映画だった。
スタッフ/キャスト
監督 市川崑
脚本 久里子亭/日高真也/冠木新市
製作 角川春樹
出演 榎木孝明/岸惠子/日下武史/財前直見/岸部一徳/神山繁/奈良岡朋子/大滝秀治/常田富士男/酒井敏也/岡本麗/小林昭二/加藤武/岸田今日子/伊東四朗/石坂浩二/武野功雄
撮影 五十畑幸勇
編集 長田千鶴子