★★★☆☆
あらすじ
ナチスの足音が聞こえる都市国家に生まれた少年は、三歳で成長を止めることにする。
西ドイツ映画。アカデミー賞外国語映画賞。カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作。原題は「Die Blechtrommel」。162分。
感想
三歳で自ら成長を止めてしまった少年が主人公だ。彼の目を通して激動の時代の大人たちの姿が描かれていく。しかし、いつもじっくりと観察するような眼をして、子供らしさが一切感じられない主人公の姿は不気味だ。
彼は無垢で純粋な子供のままでいたいというよりは、面倒くさいことに煩わされる大人にはなりたくないということなのだろう。自由気ままに太鼓を叩いていたいだけで、それを邪魔する者が現れたら金切り声を上げて断固拒絶する。子供の嫌な部分を強調したような存在だと言える。
主人公の目を通して、無邪気にナチスに熱狂する群衆や、身勝手に愛人と逢瀬を重ねる母親など、分別のない大人たちの振る舞いを浮かび上がらせている。いい加減で無責任で彼らも大して子供と変わらないが、違いと言えばそれを取り繕ったり隠そうとするところだろうか。
いくつものエピソードの中では、海辺を散歩中の主人公らが漁師と遭遇するシーンが強烈なインパクトを残した。何を捕っているの?と無邪気に駆け寄った母親が目にするのは、牛の頭にうようよと群がるうなぎの大群だった。トラウマになってしまいそうなおぞましさだ。
そしてそれを見た母親は吐き気を催していたのに、一方の父親は平気で、そのうなぎを買って料理し、美味しそうに食べてしまう対照的な姿の対比は面白かった。その後母親は死んでしまい、父親はナチスの一員となってその躍進を無邪気に喜んでいたのもどこか示唆的だ。
彼のような良く言えば大らか、悪く言えば鈍い人間の方がどんな時代でも生きているのだろう。時には搾取され、時には危害を加えながらも、そのことにすら気付かないまま生きていく。そういえば彼は妻の不倫にも気づいていなかった。
主人公は激動の時代を生き抜く。子供のままでいることにしたくせに、恋人を作ってやる事やるのはズルくないかと思ってしまうが、それこそがまさに子供的なわがままな振る舞いだと言えるのかもしれない。
身内が死んでしまった主人公は、止めていた成長を再開することにする。結局子供のままでいられるのは、それを庇護する保護者があってこそなのだろう。それがなければいやでも大人にならざるを得なくなる。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 フォルカー・シュレンドルフ
脚本 ジャン=クロード・カリエール/フランツ・ザイツ/ギュンター・グラス
出演 ダーフィト・ベンネント/マリオ・アドルフ/ダニエル・オルブリフスキー/シャルル・アズナヴール