★★★☆☆
あらすじ
カナダの小さな片田舎で起きた多くの犠牲者を出したスクールバス転落事故で、遺族らをまとめて集団訴訟を起こそうとする弁護士。
感想
事故当日と弁護士が遺族の家を回る事故後、そして2年後の現在と、3つの時間が交互に描かれていく。最初は戸惑ったが次第に慣れ、少しずつ明らかになる物語の全体像も見えてくる。そして序盤は事件の真相を探る物語なのかと思っていたのだが、そうではなく、遺族ら関係者が事件後をどのように生きていくのかを描く物語だという事が分かってくる。
しかしスクールバスの事故で田舎町の子供たちがごっそりと死んでしまうというのは、人口の少ない町にとっては衝撃だろう。町から子供がいなくなり、残るのは悲しみに沈む大人だけだ。街の雰囲気が大きく変わり、暗くなってしまうのも分かる。事故直後の騒々しさが収まり、少しずつ落ち着きを取り戻しつつあるそんな町に、主人公の弁護士はやって来る。
主人公と遺族たちとの会話から、彼らが裁判で真相を明らかにしたいという人たちと、もうそっとしておいて欲しいという人たちに分かれる事が分かってくる。何もしないのでは気持ちが収まらないし、でも騒いだところで被害者が戻ってくるわけでもない。どちらの言い分にも一理あり、どちらが間違っているとは一概に言えないだろう。
それに、それぞれの立場や状況もその判断に影響を与えているはずだ。例えば、頑なに裁判を拒んでいた男は、自ら整備をしたバスに異常がなかったことを知っており、その上で事故の一部始終を目撃しており、さらには事故後も現場や事故車を再確認している。全てを自分の目で確認したからこそ、自分の中で整理がついてしまい、もう裁判は必要ないと判断できるのだろう。それとは別に、これを機に不倫がバレては困る、という理由もあったかもしれない。
劇中で「ハーメルンの笛吹き男」の絵本が登場し、それが様々な暗示を劇中人物に投げかけている。バスの運転手や皆を引き連れ訴訟を起こそうとする主人公は笛吹き男のように見えるし、生存者の少女は取り残された子供のようでもあり、父親との関係においては彼女もまた、報酬を貰えずに怒る笛吹き男と言えるかもしれない。色々と考えてしまう映画だ。
そして主人公である弁護士もまた、娘との関係において問題を抱えているという設定なのが、物語を深みのあるものにしている。序盤の洗車機のシーンが象徴的だが、彼は正義に囚われて身動きが取れなくなっているようにも思える。対象が車の部品でもガードレールでも何でもいいから、とにかく訴えようという彼の姿勢はとても極端に見えた。もしかしたら、あちらの訴訟はそれが普通なのかもしれないが。
最終的には訴訟をしないという優しい世界を選んだ遺族たち。結局事故の原因は明らかにならず、事故を起こしたドライバーは別の場所で再び働き始めており、彼女が原因であれば同じ悲劇が再び起きる可能性がないわけでもない。笛吹き男にちゃんと代金を払わなかった村人たちのように、いつか社会がその大きな代償を支払う事になるのかもしれない。そう想像するとゾッとしてしまうエンディングだった。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 アトム・エゴヤン
出演 イアン・ホルム/サラ・ポーリー/トム・マッカムス/ガブリエル・ローズ/アルバータ・ワトソン/ブルース・グリーンウッド
登場する作品