★★★★☆
あらすじ
友人と共同生活を送るバイト店員の男は、ある女性と付き合い始め、三人で出かけるようになる。
感想
あてもなく時間を持て余した若者たちのひと夏の物語。三人が夜遊びするシーンが多く登場するのだが、その雰囲気をよく表現できている映像が良かった。人けがなくなりひっそりとした街の中で、自分たちだけが無邪気に笑っている。考えてみれば深夜の時間帯に活動しているのは、暇とエネルギーを持て余した若者たちくらいのものだ。あとから振り返れば真夜中にそんなことをして何が楽しかったのだろうと思ってしまうのだが、当時は自然とそうなっていた。そんな彼らを見ながら、こんな感じを久しく味わっていないし、これからまた味わうことはあるのだろうかと遠い目をしてしまった。
メインの三人を演じる役者たちがみな自然体の良い演技を見せている。どこか投げやりな雰囲気を持つ主人公を演じる柄本佑や、飄々とした友人役の染谷将太。二人の共同生活が容易に想像できるようなキャラクターとなっている。そして主人公の恋人役の石橋静河はしなやかな演技で、二人の間に自然に入り込み、そこにいつの間にか馴染んでしまっている女性のキャラクターに説得力を与えていた。それから机に突っ伏して本を読むシーンは、グッとくる表情でとても印象的だった。
書店員のバイトもする主人公の姿から次第に見えてくるのは、なるようになれとでもいうような捨て鉢な態度だ。バイトに行きたくなければ行かないし、同僚にムカつけば殴るし、それでクビになったとしても構わない。その時やりたいことをやるだけだ。くだらない事を気にする世間に対する反発もあるだろうし、思うようにはいかない自分に対する苛立ちの裏返しもあるのだろう。いずれにしても若者にありがちな態度ではある。
そんな彼の姿勢は恋人に対しても同様だ。彼女と付き合うのは嬉しいことだが、他で彼女が何をしているのかはどうでもいいことだし、別の男に気が移ってしまっても、それはそれで仕方がないと考えている。彼女がちゃんとしたいと前の男と正式に別れようとしたら、何もそんなことしなくても、放っておけば自然消滅するのにと、不思議そうな顔をしてみせる。彼女が戸惑ってしまうのも理解できる。
主人公のその方針は一見大らかに見えるのだが、実は自分が傷つかずに済むように防御線を張っているだけでしかない。望まない結果が起きても大丈夫なようにあらかじめ心構えをしておいて、あとは流れに身を任せているだけだ。いざその時が来たら、そういう事もある、仕方がない、と物分かりの良い振りをしてやり過ごそうとする。
それでは駄目だ、望む結果を手に入れるためにはちゃんとしなければ、と主人公が気づいたのがラストシーンだった。そんな彼を前にした彼女の、なんとも言えない表情で終わるエンディングが良い。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 三宅唱
原作
出演 柄本佑/石橋静河/染谷将太/OMSB/渡辺真起子/萩原聖人
音楽 Hi'Spec