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「太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男」 2011

 

太平洋の奇跡 -フォックスと呼ばれた男-

★★★☆☆

 

あらすじ

 太平洋戦争中のサイパン島で、玉砕突撃の残存兵を集めてゲリラ戦を行い、米兵から「フォックス」と恐れられた陸軍大尉、大場栄を描く。

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 竹野内豊主演、井上真央、唐沢寿明、阿部サダヲら出演。事実を基にした物語。128分。

 

感想

 サイパン島でゲリラ戦を繰り広げた大場栄が主人公だ。残存兵や民間人らを束ね、米軍を困らせて「フォックス」と恐れられた。だが、撤退時に霧が出たとか、一度うまく敵を罠にかけることが出来たとか、エピソードはそれくらいしかなく、そこまで凄みは感じなかった。とはいえ、終戦まで抵抗を続けられたのだから当然すごかったのだろう。

 

 日本側の登場人物たちは皆なかなかに個性的だ。頭がおかしくなってしまった柄本時生演じる兵士や、はにかみながら常に喋る中島朋子演じる民間人など、皆クセが強い。なかでも唐沢寿明演じる元ヤクザの一等兵は、まるでランボーみたいで、そして死ぬときは「プラトーン」みたいで面白かった。だが全体的には、人数が多すぎるせいもあって散漫な印象で、どの登場人物も描き方が浅い。

 

 日本側だけでなく、アメリカ側の視点からも描かれる。彼らは日本人のことを、簡単に自殺したり、絶対に降参しない不可解な生き物として見ている。米兵にひとり日本をよく知る人物がいて、上官になんとか日本人の精神を理解してもらおうとするのだが、将棋の駒を使ってする説明が何を言いたいのだかさっぱりわからずに困惑した。

 

 また、一部の民間人らは降伏して収容所にいたのだが、主人公らが夜中に侵入して情報を手に入れたり物資を盗んだりしていたのには驚いた。警備がゆるすぎだろうと思ってしまったが、逃げたところで行き場はなく、そんなことをする人間はいないとタカを括っていたのだろう。なかなか面白いシチュエーションだった。

 

 主人公らは投降を呼びかけられていたが応じず、そのまま終戦を迎える。最初は敗戦を信じず、敵の謀略だなんだと騒いでいたが、次第に受け入れるようになり、ついには米軍側に面会を申し入れる。そこで「降伏するつもりはないが、上官の命令は絶対なので、それがあるなら受け入れる」と告げるのだが、その横で山田孝之演じる部下が現実を受け入れられず、いきなり相手に発砲し始めたのには笑ってしまった。言ってるそばから部下が命令を無視している。全然「上官の命令は絶対」ではない。

 

 ただ、敗戦前後には天皇の意向を無視して戦争を続けようとした人はたくさんいた。だから、日本人は従順だと言われているが、実はそうではないのかもしれないなと思ってしまった。普段は従順だが、最後の最後には利己的になる。自分が一番天皇のことを思っているのだから、きっと理解してくれるはず、などと言い訳したりして、やりたいことをやってしまう。あまりにも無邪気で、幼稚が過ぎる。最終的には情緒に流れがちなので、単純に組織というものを本質的には理解していない可能性もある。

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 日本とアメリカ両国の人々が関わっているので、どちらにも気を使ってしまい、色々と腰が引けているように見える映画だ。また敗戦国なので、主人公のゲリラ戦を痛快に描くのはまずいかなと気を使っているようにも見える。野営での生活は食料調達など厳しいものだったはずだが、それも描かれていない。何もかもがふんわりと、ボヤかされている。

 

 また主人公の姿勢には素直に感心するが、もうこの手の戦争映画は、日本軍のグダグダぶりもセットでしっかり描くようにするべきだろう。細かくツッコんでいたらキリがないが、なぜ玉砕攻撃の前に司令部の人間だけ先に自決しているのだ?とか、日本がサイパンを放棄したことを知らせないなんて、主人公らは見殺しか?とか、いろいろと腹立たしい。

 

 こういうのをさらっと描いてしまうので、戦争にロマンを感じて美化してしまう人達が出てきてしまうのだろう。彼個人がすごいのであって、国自体は全然すごくないどころか最悪なのが伝わっていない。

 

 それから実話ものの定番である、エンディング後に彼らのその後をテロップで紹介するくだりがなかったのは残念だった。降伏せずに山に残った日本兵はどうなったのかなど、いろいろ気になった。

 

 

 

スタッフ/キャスト

監督 平山秀幸

 

脚本 西岡琢也/グレゴリー・マークェット/チェリン・グラック

 

原作 タッポーチョ 太平洋の奇跡 「敵ながら天晴」玉砕の島サイパンで本当にあった感動の物語 (祥伝社黄金文庫)

 

出演 竹野内豊/井上真央/唐沢寿明/中嶋朋子/岡田義徳/阿部サダヲ/ダニエル・ボールドウィン/板尾創路/光石研/柄本時生/近藤芳正/酒井敏也/ベンガル/浜田晃

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太平洋の奇跡 -フォックスと呼ばれた男- - Wikipedia

 

 

登場する人物

大場栄/斎藤義次/南雲忠一/井桁敬治/矢野英雄

 

 

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