★★☆☆☆
あらすじ
詐欺や窃盗で生計を立てる一家。ある日、母親が詐欺に失敗して、一家は窮地に立たされる。110分。
感想
父親が一日の窃盗の成果を発表したり、家族で母親の結婚詐欺の設定を考えたりするような一家。それだけでも普通ではないのに、家族が皆、妙に仲が良くて違和感がある。そんな奇妙な家族の過去の出来事が回想され、その理由が少しずつ明らかにされていく。
ただ、次男に関するエピソードの一端は映画冒頭で示されているので、そんなに驚かす気はなかったのかもしれない。この次男に関する仄めかしだけでだいたいの事情は察することが出来るわけだが、なぜかこの後、家族一人一人のバックボーンを丁寧に描き出して、めちゃくちゃ冗長に感じてしまった。
最初の一人の話で他の人の物語も大体想像できるので、わざわざ全員分を描く必要はなかった。そんなことされてもただ気が滅入るだけだ。家族とは何か、血とは何か、と問いかけたい映画なのだろうから、そんな事より今の家族の様子をしっかり描くべきだった。
母親が詐欺に失敗し、相手に人質に取られてしまった事で、家族に危機が訪れる。だがこの一連の出来事の描き方が全然なっていない。そもそも相手が少し席を外しただけで電話をかけて仕事の経過報告をし、それを戻ってきた相手に盗み聞きされてバレるなんて素人すぎる。気が緩み過ぎだ。
騙された相手が急にヒールになるのも違和感がある。そもそも気づいた瞬間に相手を監禁して身代金を要求するような男が、そんな結婚詐欺に引っかかるとは思えないのだが。
ところで、この映画は松雪泰子演じる母親が村本大輔、千原せいじといった吉本芸人演じる男たちにいたぶられるシーンが多いのだが、彼女は何か吉本興業を怒らせるようなことをしてしまったのだろうかと、どうでもいい何の根拠もない勝手な想像をしてしまった。もしくは監督がこれを撮りたかったのか。
さらに身代金と人質の交換をするという危険な現場に幼い子供を含む家族連れで行ったり、すぐに逃げる必要があるかもしれないのに、車を行き止まりに頭から突っ込んだ状態で駐車したりなど、のんきか!とツッコみたくなるシーンが満載だった。相手も1対2の状況で大した武器も持っていないくせに、なぜか強気という不思議。
そして想定外の事が起こり危機的な状況が訪れるのだが、長男が機転を利かして正当防衛に見せかけようとする。てっきり長男が犠牲になる気なのかと思っていたら、当然のように父親が犠牲になる前提にしていて、え?と声が出てしまった。しかもせっかちだ。いやいや、一旦落ち着いてよく考えようよと宥めたくなるくらい電光石火だった。この辺りは意外な展開すぎて爆笑してしまった。
そして最後は涙涙の感動シーン、という事にしたかったのだろうが、行き場のない人たちが集まっているわけだから、でしょうね、という感想しかない結末だった。逆に離散していた方が驚く。
なんとなく「万引き家族」を思い起こさせるような内容の映画だ。あの映画でわざわざ描かなくても分かるだろうと描かなかった部分をこの映画ではわざわざ描いているので、あの映画の後でなんでそんな事したのだろうと訝しんでしまったのだが、この映画の公開の方が先だったので安心した。
スタッフ/キャスト
監督 蝶野博
製作 中村直史/野崎研一郎/神夏磯秀/三宅はるえ
製作総指揮 奥山和由
出演 竹野内豊
坂口健太郎/黒島結菜/池田優斗/村本大輔/千原せいじ/板尾創路
音楽 村松崇継