★★★☆☆
あらすじ
父の命日に合わせて帰省しようとした男に、不可解な出来事が次々と起きる。
ホアキン・フェニックス主演、アリ・アスター監督。原題は「Beau Is Afraid」。179分。
感想
どこか神経質そうな中年の男が主人公だ。次から次へと不可解な出来事に遭遇する。道にはなぜか人が倒れており、全身タトゥーまみれの半裸の男には追われ、隣人からは身に覚えのない苦情でブチ切れられる。どこか殺伐とした不条理劇だが、あまりの理不尽さに次第に笑えてくる。
外出すれば知らない人に襲われるかもしれない、クレカを使えば無効だと言われるかもしれない、電話をかけたら冷たい対応で相手にされずに切られるかもしれない、と心配ばかりしている人には世界がこう見えているのかもしれない。恐れていることがすべて現実化していくような世界だ。
ずっとこの調子で行くのかと思ったら、突然事故に遭って見知らぬ家族のもとで目覚め、新たな展開が始まった。シュールな面白さはまだあるが、今度は謎の家族と共に暮らす怖さのようなものが出てくる。彼らは表面的にはとても善良そうだが、どこかいびつなものがあるようにも見える。
そんな中で、主人公の過去も徐々に明らかになっていく。さらに彼の心配性は、母親の過度な干渉が影響を与えているらしいことも分かってくる。急に雰囲気が変わって舞台劇の世界に入り込み、過保護の母親から解き放たれた場合の世界を覗き見させるのも巧い。舞台セット風の様々な演出も面白く、ホアキン・フェニックスの老人メイクも惚れ惚れするくらい見事だった。
様々なことを経て、主人公はついに実家にたどり着く。そして実際に母親と対峙することになる。常に何かを恐れて生きてきた男がどうなるかを示す物語だ。笑いとホラーがまじりあい、一時間ごとに展開が変わって見応えがあるが、さすがに上映時間3時間は長かった。途中で少々疲れてしまったが、この長さもまた悪夢感の演出の一つになっているのかもしれない。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 アリ・アスター
出演 ホアキン・フェニックス/ネイサン・レイン/エイミー・ライアン/スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン/パティ・ルポーン/ゾーイ・リスター=ジョーンズ/カイリー・ロジャーズ/パーカー・ポージー/ヘイリー・スクワイアーズ/ドゥニ・メノーシェ/マイケル・ガンドルフィーニ/リチャード・カインド
