★★★★☆
あらすじ
当時世界一の高さを誇り、完成間近だったワールド・トレード・センターのツインビルで、綱渡りをしようとしたフランス大道芸人の姿を描く。
事実を基にした物語。
感想
世界貿易センターで綱渡りすることに憑りつかれた男の物語だ。正直、そんな彼の気持ちは一切理解できないのだが、世の中には奇特な人がいるのだなと、好奇心で見ていられる。きっと冒険家と同じ種類のマインドを持っているのだろう。映画の中のセリフが英語とフランス語のチャンポンだったのがちょっとしんどかったが、主人公がフランス人なのでそれは仕方がない。
綱渡りに興味を持った主人公は、まず家の庭で練習し、次に街の外灯などの建造物、そしてサーカス小屋での修行、やがてノートルダム大聖堂と、どんどんと綱渡りのスケールを大きくしていく。それと共に気付くのは、この映画は高所恐怖症の人間には拷問のようなものだということだ。主人公が地上のはるか上を綱渡りする臨場感のある映像は、正視できないほど怖く、縮み上がってしまう。何気ない気持ちで見始めてしまったことを後悔し、途中で怖すぎて見るのを止めようかと何度も真剣に悩んでしまった。
主人公は地元フランスで経験を積んだ後、いざニューヨークに乗り込み、準備を開始する。何度も下見をし、協力者を集め、そしてついに決行の日がやってくる。この時点でまだ映画半ばだったので、ちょっと展開が早すぎやしないかと心配になってしまったが、綱渡り自体よりもその舞台を整える方が何倍も大変だということを見落としていた。ゲリラ的に行うので、こっそりと屋上まで忍び込まなければいけないし、何よりも二つの棟の間に完璧なワイヤーを張ること自体が大仕事だ。
重いワイヤーを持ち運んだり引っ張ったりと単純に体力的に大変そうだし、警備に見つかりそうになってドキドキするし、柵を平気で乗り越え外壁にへばりついたりする様子は怖いしで、もう彼らの仕事ぶりを見ているだけでもヘトヘトになってくる。こんなに疲れてしまったら、この後の綱渡りに差支えが出るのでは?と心配になってしまった。
いくつかのトラブルを乗り越えてようやく準備が整い、ついに本番が始まる。ただ案外あっさりと成功してしまって少し拍子抜けしてしまった。だが冷静に考えてみれば、風の強さが違うとかはあるのだろうが、地上400メートルだろうと地上40センチでの綱渡りとやることは何も変わらないわけで、当然と言えば当然なのかもしれない。問題は恐怖心などの余計な感情を上手く制御できるかどうかだけなのだろう。とはいえ、見ている側としては怖いものは怖い。あとは綱から降りて地に足を着ければ無事終了という状態からの、延々と続いた焦らしプレイには早く終わらせろとイライラさせられてしまった。
目標を達成した主人公だが、意外と百戦錬磨ではなかったことは意外だった。これ以前の大きな舞台はノートルダム大聖堂と、映画では割愛されているがシドニーのハーバーブリッジだけだったようだ。
事実を基にした映画なのだから、最後に現実に行われた綱渡りの写真を一枚くらい見せて欲しかったような気がするが、現実とはリンクさせずに映画の中だけで完結させたかったのだろう。それはそれでありだ。
見ているだけで手に変な汗をかき、無駄に体力を消耗してしまう映画だった。面白かったのだが、怖くてもう一回見る勇気はないかもしれない。個人的にはホラー映画より怖い。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 ロバート・ゼメキス
原作 マン・オン・ワイヤー
出演 ジョセフ・ゴードン=レヴィット/ベン・キングズレー/シャルロット・ルボン/ジェームズ・バッジ・デール/クレマン・シボニー/ベン・シュワルツ/スティーヴ・ヴァレンタイン
音楽 アラン・シルヴェストリ
登場する人物
フィリップ・プティ