★★☆☆☆
あらすじ
しがない生活を送る元ヤンキーの青年は、ある日突然高校時代にタイムリープしてしまったことから、死んでしまった元恋人を助けようと奮闘する。
シリーズ第1作。120分。
感想
未来を変えようと過去に戻った元ヤンキーの男が主人公だ。戻ったばかりの頃は、ヤンキーの格好がダサいとか、ナメてるとかナメられているとかどうでもいいとか、不良の生態をディスる言葉を連発して面白くなりそうだったのだが、その後は普通のヤンキー映画だった。
主人公の惨めな人生を決定づけた高校時代は、不良集団のリーダーの男と友達になったことでまず変わった。彼がなぜリーダーに気に入られたのかはよく分からないが、シンデレラストーリーの一種だと考えればいいのだろう。なんのとりえもない普通の人間が、すごい人間に見初められる。そこはそういうものだと受け入れるほかない。
だが、その後の主人公とリーダーの関係は奇妙だった。他の仲間と同じようにバイクを乗り回したりして共に行動するのではなく、一歩引いた場所で見守っている。これはよく考えると友だちというよりも恋人のポジションだ。不良漫画によくいるマドンナと同じ役割を果たしている。そう気づいてしまったら、その後はそんな風にしか見えなくなってしまった。
物語は、そんなリーダーと彼をサポートするマドンナ役の主人公の関係が中心となってしまい、本来の目的である元恋人を助ける話はおざなりになっている。そもそも主人公が元恋人の死にそんなにショックを受けているようには見えなかったし、それを必死に阻止しようとしているようにも見えなかった。
第一、将来にそんなことが起きると分かったのなら、もっと頻繁に会うなど付き合い方を改めようとしそうなものなのに、そんな気配はない。二人に親密さが感じられず、付き合っているのかすら怪しいぐらいだった。二人で会う約束をする時も、過去から戻って彼女の安否に変化があったかを確認する時も、事務的なやりとりに見えてしまう。
それから、未来を変えようとするためのミッションが、変えようとする結果からあまりに遠すぎる。どんな事件で死んでしまったのか詳しく語られないので不明だが、その事件で元恋人を死なせてしまった人間をどうにかすればいいだけのはずだ。それなのに「風が吹けば桶屋が儲かる」の桶屋ではなく、「風」を何とかしようとばかりしているようで、いかにも効率が悪い。本当に風を止めれば大丈夫なのかという疑念も残る。
10年前にしか戻れない設定なので、そこで出来ることをやっているのだろうが、それよりも事件から9年半ほど過ぎるまでのんびりと待ち、それから過去に戻って直接の事件を阻止するために頑張った方が手っ取り早いような気がしてしまう。
ヤンキーの抗争としても、未来を変えようとする主人公の成長物語や元恋人との恋愛物語としても、そしてタイムリープものとしても、どれも中途半端なものになっている。リーダーが、中盤で一発で倒した相手との再戦でなぜか手間取るクライマックスもキレが悪い。
おかげでちゃんとやればビシッと決まったはずのラストも、何の感情も湧かないまま過ぎていった。原作漫画を映画サイズにしたらこんな感じ、という粗いプロットを見せられたような気分だ。ここから細部を詰めたものを見せて欲しかった。
ところで、冒頭のヤクザを轢き殺そうとするシーンや自転車で二人乗りするシーンなど、北野映画へのオマージュを感じさせる場面が何度か見られたが、あれは意識していたのか、ただの偶然なのか、どっちだったのだろうか。
スタッフ/キャスト
監督 英勉
脚本 髙橋泉
原作 東京卍リベンジャーズ(1) (週刊少年マガジンコミックス)
出演 北村匠海/山田裕貴/杉野遥亮/今田美桜/鈴木伸之/眞栄田郷敦/清水尋也/磯村勇斗/間宮祥太朗/吉沢亮
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次作 シリーズ第2作 前編