★★★☆☆
あらすじ
国鉄職員として長年勤務した男とその家族の物語。
感想
国鉄職員の男とその家族の姿が、労働組合の活動を中心に描かれていく。労働組合が製作に関わっているので、組合活動をしてきた人には感慨深い作品になっているのかもしれない。
合理化によってかつての働き甲斐が失われ、人員削減や増えない賃金に不安を覚えながらも、自分たちの地位を必死に守ろうとする人々の姿が映し出される。時おり組合員のインタビューらしき音声も挿入されて、ドキュメンタリーぽさもある。
地位向上を目指して活動する彼らを見ていると、なんで今はこんな風に熱心に活動する人が少なくなったのだろうと思ってしまった。今は労働者の地位向上どころか、ブラック企業が跋扈して当然の権利する守られていない状態のところも多いのに。それに自分も労働者のひとりなのになぜか経営者の肩を持ち、いちいち取り締まっていたら会社が潰れちゃうよ、としたり顔で話す人も多い。もはや自分が労働者である自覚がないのだろう。ある意味で自分たちに都合の良い人間を育てる教育を押し付けてきた資本家たちの勝利なのだろう。それが世界でも勝てるのかは知らないが。
国鉄職員を演じる井川比佐志は、顔からしてそうだが、いかにも昭和の男といった雰囲気を持っている。頑固でわがままですぐ怒鳴る。ちゃぶ台返しなどはまさに昭和名物と言っていいかもしれない。最終的にはどうせ許すくせに、最初は頑として娘の結婚を認めないところなどは、男の面倒くささがよく出ていた。だが昭和に限らず令和の今でもこんな男はそこらにいる。こんな子供のような男をおだてたり、機嫌をとったり、あやしたりしなければいけない妻は大変だ。
それから主人公たちが住む家のインテリアがいかにも昭和で面白かった。壁紙も食卓の上もとにかくあらゆるところが花柄だ。うるさく感じなくもないが、うまくやれば今でも全然お洒落に出来そうだ。
最後は廃墟の軍艦島を訪れ、国鉄職員の未来に重ねている。合理化が進むと働く場所がなくなってしまうという危惧があるのだと思うが、でもこれは避けられないような気がする。だから労働組合の役割は、これまでの働き方を維持するのではなく、人員整理される人が次の仕事にスムーズに移れるように時間を稼いだり、物価に対して相対的に給料が下がり過ぎないように維持したりするような、変化のスピードを落とすことなのかもしれない。
スタッフ/キャスト
監督/製作/出演 左幸子
脚本 宮本研
出演 井川比佐志/市毛良枝/今井和子/長塚京三/小松方正/磯村建治/殿山泰司/大滝秀治/吉田義夫