★★★★☆
あらすじ
戦時中に上官の命令で行った行為により戦犯とされ、裁判を受けることになった理容師の男。
1958年に放送されたドラマのリメイク作品。139分。
感想
戦犯として裁かれることになった理容師の男が主人公だ。上官に従うしかない状況で命令通りにやっただけなのに、死刑になってしまうとはやり切れない。しかも彼に直接指示した上官は死刑を免れていて、理不尽さは募る。
だが組織的な犯罪においては、直接手を下したものが重い罰を受けるようにしておいた方が抑止力が働くような気がする。上官の指示に従っただけ、という言い訳が通用しなくなるので、当事者は保身のために必死に抵抗するだろうし、不正を告発するような動きもするようになるだろう。
とはいえ、この時の主人公は抵抗すれば殺されるだけだったので、逃れる方法は何もなかった。上官がそんな指示などした覚えはないとトボけてしまえば、すべて部下のせいになってしまうシステムになっていること自体が間違っていると言えるだろう。これは今の日本でも続いており、裏金は会計責任者が勝手にやりました、でなぜか済んでしまう。
自民裏金事件 旧安倍派の会計責任者に有罪判決 東京地裁 刑事告発した教授「本質分からないまま」:東京新聞デジタル
無意味な暴力や謎理論が蔓延る日本軍だけでなく、一方的な東京裁判や民間人を狙った大空襲など、理不尽は至る所に転がっている。そんな状況を生んだ戦争がいかに虚しいものなのかが、ひしひしと伝わってくる。またこうなってくると、裁判での真相究明を困難にした、終戦時に自決した軍人たちの独りよがりの自己満足も腹立たしく思えてくる。
そうした様々な理不尽に対する憤りや戸惑いが主人公にもっと表れていれば良かったが、少し明るすぎたきらいはある。ずっと落ち込んでいられるわけではないし、しだいに麻痺して慣れてしまうのだろうが、それでも常に暗い影を感じるものにして欲しかった。
だが伏線をうまく効かせたプロットで、ラストに至る前の悲しき勘違いもその落差で激しく感情を揺さぶられた。主人公演じる中居正広も良い表情を見せて、終盤はグッと惹きつけられるものがあった。
最初は大げさに感じた音楽や映像も、古典的な大作映画風でこれはこれでありだなと思えてきた。ネタ的なキャスティングも、ここでこの人が出てくるかとニヤリとさせられる。
戦争に巻き込まれるなんてごめんだなと思わせてくれる反戦映画だ。いつまでも「貝になりたい」なんて思わなくても済む世の中であって欲しいものだ。
スタッフ/キャスト
監督 福澤克雄
脚本 橋本忍
出演 中居正広/仲間由紀恵/西村雅彦/平田満/マギー/武田鉄矢/織本順吉/伊武雅刀/名高達男/武野功雄/六平直政/荒川良々/金田明夫/浅野和之/小林隆/梶原善/中島ひろ子/泉ピン子/片岡愛之助/草彅剛/笑福亭鶴瓶/上川隆也/石坂浩二
音楽 久石譲
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