★★★★☆
あらすじ
歌手・女優として活躍したスター、ホイットニー・ヒューストンの生涯を描く伝記映画。142分。
感想
ホイットニー・ヒューストンの生涯を描く物語だ。最初に彼女の音楽的才能のルーツを示し、その次に描かれるのが彼女の性的志向だったのには意表を突かれた。彼女にその傾向があったことを知らなかったのでそれ自体に驚いたが、ここを誤魔化すとその後のストーリーが不自然になってしまうと考えたからなのだろう。
彼女は母親が歌手で、従姉はディオンヌ・ワーウィック、父親も音楽マネージャーをしていたことがある。音楽ビジネスのすぐそばで育っただけに、デビューまでがスムーズだったのが印象的だ。母親が業界の大物プロデューサーの前で歌わせて才能を知らしめ、いざ契約となったら父親が書類をチェックする。普通は才能があってもこのプロセスにたどり着くまでが大変だ。途中で騙されたり、あきらめてしまう人もいるだろう。
そう考えると業界に近い場所にいることはとても有利だ。これが身内に音楽関係者がいるミュージシャンが多い理由なのだろう。
ホイットニー・ヒューストンの歌手・女優としてのハイライト的シーンが次々と描かれていく。その歌唱力と存在感には素直に見入ってしまう。しかし彼女の絶頂期が90年代序盤なのは少し意外な気がした。なんとなく80年代なのかと思っていたが、80年代にスターとなり、そのまま上り調子で90年代前半を駆け抜けたということか。
この時期にボビー・ブラウンと結婚もして、公私ともに絶好調のはずだったのに、これが彼女のターニングポイントとなってしまった。夫との不仲や父親の金の使いこみ、そして資金繰りのための無理な活動が精神を蝕み、薬物に手を出しボロボロとなって人が離れていく。
スターの転落にありがちなエピソードが続くが、どれも断片的でしっかりと描かれていない。だから彼女が落ち込む理由がいまいちピンと来なかった。特に最初の頃の彼女は自信満々で独立心旺盛だっただけに、なぜそこまで心が弱ってしまったのか、腑に落ちないところがあった。
これは関係者のほとんどが存命なので配慮したのだろう。特にボビー・ブラウンはもっとひどいことをしていたイメージがある。その他の登場人物たちも、激しく対立したのになぜかその後は普通に付き合っていたりと、その関係性がぼやかされている。実際はもっとえげつないことがあったのだろうなと勝手に想像してしまう。
そんな中で、主人公のことを金づるとしてではなく、一人の人間として心配していたプロデューサーのクライヴ・デイヴィスの優しさが泣けた。ただ彼もこの映画の製作として関わっているので、美化しているのでは?と穿った見方をしてしまうが。
ラストは、彼女のキャリア最高のステージの一つとされる94年のメドレー歌唱シーンだ。だがなぜかあまりグッと来なくて盛り上がり切れなかった。それまでの歌唱シーンはどれも良かっただけに不思議だ。上映時間が長いので疲れてしまったのかもしれない。ここで最高潮となって終われたら文句なしだった。しかしそれでも、ヒット曲や名場面の数々と共に彼女の生涯に思いを寄せることが出来る悪くない映画だ。
スタッフ/キャスト
監督 ケイシー・レモンズ
脚本 アンソニー・マクカーテン
製作 デニス・オサリヴァン/ジェフ・カリジェリ/アンソニー・マクカーテン/パット・ヒューストン/クライヴ・デイヴィス/ラリー・メステル/モリー・スミス/サッド・ラッキンビル/トレント・ラッキンビル/マット・ジャクソン/クリスティーナ・パパジーカ/マシュー・サロウェイ
出演 ナオミ・アッキー/スタンリー・トゥッチ/アシュトン・サンダース/タマラ・チュニー/ナフェッサ・ウィリアムズ/クラーク・ピータース
ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY - Wikipedia
登場する人物
ホイットニー・ヒューストン/クライヴ・デイヴィス/ボビー・ブラウン