★★★★☆
あらすじ
ミュンヘンオリンピック事件で自国選手を殺害されたイスラエルは、報復としてテロの首謀者たちを暗殺するチームを組織する。
感想
ミュンヘンオリンピック事件自体を描くのかと思っていたら、その後を描く映画だった。しかし、11人の暗殺を描くということは、あんまり楽しい映画になりそうもないなと思っていたらその通りだった。
ただ考えてみれば、暗殺は戦争よりは効率が良いのかもしれない。うまくやれば相手の組織は弱体化するし、味方の人間が大量に死ぬこともないし、巻き添えとなる民間人も少なくなる。ただ、それを実行する人間からしたら結構きつい。戦場のように相手が敵意むき出しで向かってくる状況ではなく、家族や友人と幸せに過ごす日常を目の当りするわけで、この映画のように思想や信条を別にしたら悪い人じゃない、という印象を持ってしまう可能性もある。何より暗殺はイメージが暗い。
映画はそんな感じで、時間とともに段々と暗鬱とした様相を呈してくる。その中で時々挿入されるポップミュージックが、束の間の安らぎを与えてくれる。特に一時的に隠れ家に同居することになってしまった敵とのラジオの選局争いで、アル・グリーンの「Let's stay together」で互いに納得するのが微笑ましかった。ただその後、さらに暗澹たる状況になってしまうのだが。
結局、報復なんて報復を生むだけの泥沼で虚しいだけ、というありきたりの話。そんな誰もが分かるありきたりの話なのだが、実際自分の身に起きたら、そんな連鎖を断ち切るために我慢をするなんて、なかなか感情的に難しいだろう。国内の刑法としては仇討ちは禁止されているが、国家間となると報復は認められているというか、理解されているし。ラストシーンに映った在りし日の世界貿易センタービルが印象的。
スタッフ/キャスト
監督/製作
脚本 トニー・クシュナー/エリック・ロス
原作 標的(ターゲット)は11人―モサド暗殺チームの記録 (新潮文庫)
出演 エリック・バナ/ダニエル・クレイグ/マチュー・カソヴィッツ/キーラン・ハインズ/ハンス・ツィッシュラー/ジェフリー・ラッシュ/イヴァン・アタル/アイェレット・ゾラー/マイケル・ロンズデール/マチュー・アマルリック/モーリッツ・ブライプトロイ/ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ/マリ=ジョゼ・クローズ
音楽 ジョン・ウィリアムズ