★★★☆☆
あらすじ
三好長慶の右筆である松永久秀に雇われた男。
感想
序盤の松永久秀の悪逆ぶりは魅力的だ。突然人を殺したり、女に襲いかかったり、少しも悪びれるところがない。こんな感じで悪逆非道の限りを尽くしてくれたら面白かったのかもしれないが、段々と表現がおとなしくなっていく。どんどんエスカレートしてしまうと、逆にリアリティが失われていくものなのかもしれないが。
個人的には松永久秀が大仏を燃やしたり、将軍足利義輝を殺したり、最後は信長の欲しがっていた茶道具と共に爆死したとかいうエピソードしか知らなかったので、それらがどんな経緯で起こったことなのか、だいたい把握できたという意味では有意義だった。とはいえ、歴史小説だけで知った気になるのは危険ではあるが。実際、茶道具と共に爆死したというのは作り話のようだ。
そしてイメージとしての久秀は粗野な乱暴者といった感じであったが、この小説では繊細な部分も描かれている。確かにただの荒くれ者では、右筆から大出世なんて出来ない。きっと周りの人間の細かな部分までじっくり観察して、様々な手を使い操っていたのだろう。
自然天然はな、俺らのことなど一切眼中にない、いうことや
p443
将軍を殺したり、大仏を燃やしたりの思い切った行動も、神仏をも恐れぬ勇猛果敢ではなく、単純にそうすることで事が有利に運ぶからという合理的な判断によるものだった。神仏の祟りなんてもともと信じていない。
ただ久秀はそこまで天下を取ろうという欲はなく、周りの人間を動かして自分の居心地がいい環境が作れればいいやという程度の欲しかなかったのが、あの時代の混乱を招いたのかもしれない。有能な人間が気まぐれで動くほど、迷惑なことはない。有能で本気な信長が来ると、すっかり久秀は老け込んだ印象になってしまった。
そして信長が、久秀からいろんな逸話を聞きたがったりして、このおじいちゃんカッコいいわーとリスペクトしているのが可愛らしい。久秀がいたから信長もその後、思い切ったことが出来た。ただ、信長におじいちゃん扱いされたから、久秀が腹を立て、信長に一矢報いてやろうと思ったというのは皮肉だ。
著者
花村萬月