★★★☆☆
あらすじ
恐妻家で凄腕の殺し屋は、家族の事を思い引退を考えている。連作短編集。
感想
伏線があり、とぼけた会話があり、驚きの展開がありといった著者得意の連作短編集だ。全体としては大きな物語といえるのだが、特に最初の数編は小粒な印象だ。主人公の本職の殺しの描写もあっさりとしている。
その代りにクローズアップされているのが、殺し屋の日常だ。当然彼にもプライベートな時間があり、仕事の時とのギャップがおかしみを生むという事なのだろう。その最たるものが恐妻家という事で、あんなに仕事の時は堂々としているのに、家では妻の一挙手一投足にビクビクしている。ただ、さすがに大げさすぎて引いてしまっている自分がいた。
でも、それは自分のような平凡な生活をしている人間だからそう思ってしまうだけで、見ず知らずの人を殺すような生活をしている人間にとっては、そもそもそんな普通の家庭を築いている事自体が異常だといえる。殺し屋が幸福な生活を送っていていいのだろうかと自問自答してしまうのは分からなくもない。そんな奇跡のような幸福を失いたくないが故の恐妻家なのだと考えれば、理解できるような気がする。
そして、小粒な印象の短編が続いてからの突然の大きな変化に驚かされた。しかも、そんな結構な事をサラッと言ってしまうので余計にびっくりする。思わず二度見してしまった。
ここから急に物語はスケールの大きなものになっていく。どこかでもっとハッピーなエンディングを期待していたのだが、さすがにそれは都合が良すぎたか。これでも悪人にとってはかなり幸せな部類の結末だと考えるべきなのだろう。
著者
登場する作品
ヴェニスの商人(新潮文庫)(ベニスの商人)
関連する作品
殺し屋シリーズ 前作