★★☆☆☆
あらすじ
花を生ける僧・花僧、池坊専好は、懇意にしていた千利休に切腹を命じ、民衆を苦しめる豊臣秀吉に対して、生け花で諫めようとする。127分。
感想
2時間を超える冗長なだけの映画だ。主演の野村萬斎のたっぷり間を使った演技は、彼のキャラクターだからいい。ただ他も全部、それに合わせてたっぷりとした間を使ってしまっているので、全体的にテンポも悪いし、野村萬斎の演技もすべて臭く見えてしまう。他をテンポよく描いた上での、野村萬斎なら問題なかったはずだ。
そしてずっと暗い。断続的に描かれる、秀吉がいたぶってそれに耐える千利休、というシーンは、やがてその矛先は民衆に向かうだろうという暗示でもあるので、映画を通して重苦しい雰囲気が常に漂っている。時々、コミカルなシーンを入れてはいるのだが、そんな暗い雰囲気の中で明るいことをやられても、逆に暗さが際立つだけになってしまう。そもそもコミカルシーンが全く面白くないのも致命的だが。
主人公に感情を移入できないのもつらい。何を考えているのか分からない得体のしれない人物で共感できず、あまり愛嬌もないので好感も持てない。野村萬斎が演じるキャラクターはそうなりがちだ。そういう場合は、感情移入できるキャラクターを近くに置くのが定石で、紅一点の森川葵がそれにあたるのかと思ったが、彼女は可哀そうなくらい見せ場がなかった。ただ存在しただけだった。
おそらく、この映画で感情移入できるキャラクターは千利休となる。それなりに二人の交流を描いてはいるのだが、全然物足りなかった。もっと関りがないと。その代わり、秀吉と千利休の確執の描き方は悪くなかった。秀吉の理不尽な嫌がらせに、思うところがあってもそれを表に出さずグッとこらえ、ひたすら恭順の姿勢を示す千利休を演じた佐藤浩市の演技は見応えがあった。
せめて最後は悪逆を尽くす秀吉に一矢報いて、カタルシスを与えてくれるのかと思ったら、秀吉の改心を中心に描いていてびっくりした。多くの民衆を無慈悲に殺しておいて、改心したからめでたしめでたし、なんてなるわけがない。しかも当然のように、長々とした説教臭いセリフと、たっぷりとした間を使った皆の演技。堪能するというよりも早く終われと願ってしまった。
願いが通じてそれも終わり、ようやくこれで終了かと安堵していたら、そこからさらにエピローグがあった。しかもどうってことのない毒にも薬にもならないような内容だ。長過ぎる、という感想しか出てこない。
スタッフ/キャスト
監督 篠原哲雄
原作 花戦さ (角川文庫)
出演 野村萬斎/市川猿之助/高橋克実/山内圭哉/和田正人/森川葵/吉田栄作/竹下景子/佐々木蔵之介
音楽 久石譲
登場する人物
池坊専好/豊臣秀吉/織田信長/前田利家/千利休/石田三成