★★★☆☆
あらすじ
老作家と飼っている金魚との会話。
感想
老作家と少女に擬人化された金魚との他愛のない会話を中心に、会話文だけで構成されている。若干、金魚の描写が曖昧でどんな姿をしているのかイメージしにくい部分はあるが、その時々で魚や人間に姿を変えているという事なのだろう。
そして登場する金魚は擬人化されたというよりも女体化されたといった方がいいかもしれないくらい、著者の妄想は膨らんでいる。
「では、あたい、急いで交尾してまいります、いい子をはらむよう一日じゅう祈っていて頂戴。」
室生 犀星. 蜜のあわれ (Kindle の位置No.1375-1376). 青空文庫. Kindle 版.
おいおい金魚に何言わせてるの、と突っ込みを入れたくなる部分も多い。その他にも、お尻の美しさについて熱く語ったり、自らの性欲について語ったり、女体化した金魚の体を観察して辱めたり。最初は呆れてしまっていたが、読んでいるうちに逆に凄みを感じ始めた。
大抵こういう表現をするときは著者の自我や自己顕示欲のようなものを感じることがあるが、ここではそれを感じない。ただただ自分の想像のおもむくままに無邪気に自由に筆をすすめているようにみえる。
けど、おじさんの生きる月日があとに詰ってたくさんないんだもの、だから世間なんて構っていられないんだ。嗤おうとする奴に嗤って貰い、許してくれる者には許してもらうだけなんだよ。
室生 犀星. 蜜のあわれ (Kindle の位置No.501-503). 青空文庫. Kindle 版.
世間の反応や自意識の抵抗などはもはやどうでもよく、ただ純粋に書きたいことを書くという心境になれるのは、年を重ね老齢を迎えた者ならでは、なのかもしれない。どこか悟りの境地に達した人を見るような思いになった。
著者
室生犀星
登場する作品
赤い風船/白い馬【デジタルニューマスター】2枚組初回限定生産スーベニア・ボックス [DVD]「赤い風船」
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